TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.14 「人と本をつなげる場所―人をふり向かせる本の魅力」幅允孝×嶋浩一郎

2012年12月22日(土)(於:印刷博物館グーテンベルクルーム)の「デザイントーク in TOPPAN vol.14」は、本をテーマに開催しました。書店やライブラリーで本の提案をし続けるブックディレクターの幅允孝さんと、「本屋大賞」を設立し、下北沢で書店「B&B」を経営する編集者・クリエイティブディレクターの嶋浩一郎さん。いずれも劣らぬ本好きのお二人に、本についてたっぷりと語っていただきました。

幅允孝 プロフィール

嶋浩一郎 プロフィール

●本が呼び掛けてくる本屋に行こう

幅  :今日は嶋さんと本屋の話をたくさんしていきたいと思います。僕がこういう仕事をしているのは、本を手に取る機会を世の中に点在させたいから。少しの時間であっても、本屋に立ち寄って実際に本を眺めたほうが、ネットで目次や最初の1ページをじっくり読むより遥かにたくさんのことがわかるんです。

嶋  :なんといっても書店は情報量がすごいですからね。背表紙を見るだけでもものすごい情報量がある。

幅  :そうですね。しかも同じ本でも差し出す環境によって届き方がまったく違いますよね。隣に何の本が置かれるのか、どこに置かれるかによって変わってくるのも面白いところです。

嶋  :そう、まるでAKBのようにね。

幅  :えっ? AKB?

嶋  :AKBってセンターが変わると見え方が変わってくるでしょ? 本も同じだなと思って。本棚はどの本を面出ししているかで変わります。本屋はいつ行っても同じだと思っている人が世の中にはいっぱいいますが、実は同じ在庫でも並べ方でまったく違ってくる。

幅  :そうなんです! リアルな本屋は本を連なりで見せることができるというか。

嶋  :僕はネット書店も電子書籍もバンバン利用しています。調べるテーマが決まっていれば検索は楽だし、翌日デスクに本が届くわけですから。で、リアル書店にはリアル書店の役割がある。書店に行くことで僕らは想定外の情報と出会うことになる。

幅  :僕ももちろん電子書籍は利用していますしネットでもバンバン買っていますが、それだけだと自分の中の円環が閉じてしまうような気がして、どうしてもリアルな本屋で何か「ノイズ」を入れたくなってしまいますね。本屋に行くと、タイトルも著書も全然知らないけどなにか匂ってくるような、あるいは本が呼んでいるのが聞こえるような感じがしませんか?

嶋  :確かに! いい本屋は自分が買うつもりがない本を買わされてしまう感がありますね。でも、そういう本屋こそ最高なんです。たとえば南阿佐ヶ谷にある書店「書原」では、気がつくと大量に本を抱えてレジにいたりする。とはいえ、それは欲しくないものを買わされているわけではなく、欲しかった本を見つけたという感じ。

幅  :狩猟的な感覚ですね。それってとても重要だと思います。その感覚は失いたくないですね。

●本屋は元祖セレクトショップ

嶋  :たとえばネットで買う時はジャンルやタイトル、著者など欲しいものが既にはっきりと言語化されていますが、人間は欲望を10%くらいしか言語化できないそうです。つまり、欲しいけれどなんだかわからないというものが90%くらいあるわけです。

幅  :無意識下に「欲しいもの」があるという訳ですね。

嶋  :それはネットでは検索できない。ところがいい本屋はそれをどんどん言語化してくれる。「これぞオレが欲しかった本だ!」というものを見つけてくれる。しかもさらにレジ横には『メダカの飼い方』『校正記号の書き方』のような、いったい何の役に立つんだと思うような本が置いてあったりして。そうすると「この本はオレを待ってたんだ!」と思わず買ってしまうことになる。

幅  :捨て猫を放っておけない感じなのかな。レジ横作戦ですね。

嶋  :「あゆみブックス早稲田店」のレジ横の雑誌もすごいですよ。書店員が「ここがいいです」と付箋をバシバシ貼っているんです。

幅  :いいですねえ。本屋はそういう風に主語全開でいかないと。

嶋  :あとは代々木上原南口にある「幸福書房南口店」もすごいです。

幅  :あそこは老舗ですね。

嶋  :売りたい本は2冊並べて本棚に並べてあって、しかもそれが『自動販売機の歴史』とか『冥王星を追って』、『ミミズの話』のような一見何の役にも立たなさそうなものばかりで、また「この本はオレを待ってたんだ!」と…(笑)。

幅  :要は、すべての本屋は本屋自身の選択の結果であって、本棚には本屋が込める思いがあるべきだと思います。「この本をここに並べたのは僕がこう思ったからです」という、しかるべき理由が。

嶋  :そうですね。本屋というのは、元祖セレクトショップだと思うんです。本棚をつくることに関しては、「B&B」※をつくる時、京都の「恵文社一乗寺店」の堀部篤史君に教わったことがあります。それは、本棚はひとりだけでつくらないほうがいいということでした。すごい棚にはなっても敷居が高くなるからやめたほうがいい、と。


※ B&B(Books & Beer)
【住所】〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
【営業時間】12:00〜24:00(イベント開催中も、店内の半分は通常通り営業)
【休業日】年中無休(年末年始および特別な場合を除く)

幅  :触っちゃいけません、みたいなオーラが出ちゃうんですね。

嶋  :そうなんです。僕の場合なら、『自動販売機の歴史』『フクロウの話』のような本ばかりになって超マニアックな本棚になってしまいますから。本屋は人に買ってもらう場所なのですから、いろんな人に引っ掛かりがある方がいいし、いろいろ感じてくれるほうがいい。そこで、「B&B」ではメインで本棚をつくる書店員に加え、僕と共同経営者がちょっとずつ手を加えるようにしています。

幅  :うちも一緒ですよ。僕と共同代表ともう一人、基本3人でやっています。僕は本棚をつくる時、まずはそこのスタッフや利用者にインタビューをして他者の意見を入れます。それから僕が骨子やコンセプトを書き、集めたい本を100タイトルほど挙げます。それをベースに3人がそれぞれ本を集め、お互いに読んで確かめながらまとめていきます。一人でつくった本棚ではジャンプできないから、合わせ技を使っているんです。

●実在の個人に届けるつもりで本を並べる

嶋  :実際に本屋を運営してみて初めてわかったのは、本屋は毎日変化しているモノだということ。ガウディの建築とか、あるいは盆栽のように日々ちょっとずつ変わるわけです。本屋さんは在庫の中で毎日暫定一位の書棚を作り続ける。

幅  :その日にでき得る限りのベストを尽くすということですね。

嶋  :ええ。たとえば「よ〜し、今日は007の映画を見た人が巷にあふれているからスパイ小説を面出ししておこう」とか考えるわけです。置き方によって全然違って見えますから。

幅  :あ、そうか! だからこの間「B&B」にスパイ小説やスパイの道具集が面出しされていたんですね!(笑)店主の顔が見え、責任の所在がはっきりしている本屋さんはそれぞれ全く違って見えますよね。

嶋  :いい本と出会える本屋さんは、それぞれのお店独自の本のプレゼン方法をもってますよね。

幅  :最近は、本はその差し出し方が選ぶこと以上に重要だと思うようになりました。お客さんのモチベーションや気持ちに寄り添ったしつらえで差し出すには、単に本棚に並んでいるだけでは届きません。隣に何を並べればいいのか、どういうPOPを置くのか、何冊ずつ連ねるのか、どういう環境で差し出すのかで届き方は変わってきます。

嶋  :例えば『博士の愛した数式』がどこに置いてあるのか。普通の本屋さんは女流作家さんのコーナーですよね。それがちょっと気のきいた書棚をつくると置き場所も変わってくる。この本のモデルは奇行で有名な物理学者のファインマン。彼の人生を描いた本もいくつか出版されているのでその隣においてあったり、さらには小説の主人公が阪神ファンだからと阪神タイガースの本の隣に置かれていることもある。ここまでいくと相当トンチがきいていますが。

幅  :飛ばしすぎるとダメですけれど。思い入れがあり過ぎて却って伝わらなくなることもあります。わからなくても面白ければいいのですが、引かれてしまっては意味がない。なにより重要なのはコミュニケーションが個と個になっていることですね。本棚をつくる時、僕はそこで働く人やお客さんになる人にインタビューをしながら本を集めますが、その時には一人ひとりにどういう本を差し出せるのかを積み重ねていくことで、それが汎用性に繋がっていけばと考えています。

嶋  :それは書店員が「これはこの人が買っていくだろう」と考えて仕入れるということですね。僕も「これが好きな人がいるだろう」というものを仕入れるようにしています。

幅  :本当に重要なのは一人でも全身で頷いてくれる人がいるかどうか、実在の個人に向き合っているかどうかではないでしょうか。

●本と結びたい「いい関係」

嶋  :ところで、その本屋が自分に合った差し出し方をしてくれるかどうかは、自分の持っている本を探してみるのがおすすめです。自分の好きな本がどこに置かれているかで、自分の好きな気づかせ方をしてくれる本屋かどうかがわかります。

幅  :本屋にそれだけバリエーションがあることすら気づかない場合が多いですから。とにかく5分でもいいから時間が空いたら近くの本屋に飛び込んでみる。

嶋  :目的がなくてもいい、いえ、むしろ無目的のほうがいい気がします。本屋はたった3分でも相当に刺激的な出会いができますからね。

幅  :とはいえ、自分さえ開いていればどんな本屋でも楽しめる気もしますよ。昔、日曜ロードショーの解説で淀川長治さんが、どんなにつまらない映画にも「あの女優のえくぼがたまりません」「あのセリフがいいんです」と美点を見つけては楽しそうに語っていたように、僕も本を楽しめたらいいなと思っています。どんな本にも自分が納得できることが一つや二つはあるはずだし、肉が食べたい日もあれば冷奴と野菜で十分な日もあるように、その日の自分に合うか合わないかで読みたい本は変わってきます。

嶋  :日々の買い物ついでに恋愛小説を買う、待ち合わせの時間の合間に宇宙の本を手に入れる。検索では出会えない情報がある場所、本が呼び掛けてくれる場所となるような本屋っていいなと思い、「B&B」をつくったんですよね。とはいえ、今の世の中、小規模の書店の経営は大変厳しい。僕らはそういう小型書店の新しいビジネスモデルを探ろうと思って、いろいろと実験をしているんです。イベントもそのひとつで、作家や編集者が来ては毎日、奥のテーブルでトークショーをやっているんです。

幅  :毎日なのはとても大変だと思いますが、わざわざそこに行かないと出会えない何かがあるというのはすごく大切なことですね。

嶋  :30坪の店に30人入るとぎっしり埋まり、話し手と聞き手がインティメイトな関係になるのにちょうどいいんです。

幅  :僕も去年からアメリカのリーディングクラブをお手本にして作家本人をお呼びして直接話をする読書会を始めました。昨年は読書フェスとして上野の恩賜公園の水上ホールで650人が集まって朗読会もやり、すごく盛りあがったんです。実はこのところ、本を届けた後のことを考え始めるようになってきました。本がもう少し日常の会話のテーブルにのるコンテンツになれるよう、本屋が感情を交換しあう場になればと考えています。

嶋  :そこまで行けば、本屋も「バージョン3.0」という感じになってきますね。

幅  :ええ。それと皆、本ともっとイーブンな関係を結んでほしいと思います。日本人は、本と言えば最初から最後まで一文字も漏らさず読み通さないと敗北だと考えがちですが、そうじゃない。

嶋  :必ず役に立つべきだと思って読むのではなく、いっそ役に立たないものだと思って読んでみたほうがいいのかも。そのほうが逆に「おお!」と驚くような発見に出会えるような気がします。

幅  :一行でも出会いがあったら本と良い関係を結べた、と思ってもらいたいですね。たった一文、自分の中に入ってきたなと思えるものがあれば自分にとっていい本だったと言えるのではないでしょうか。

●本を差し出し、届かせるために

嶋  :では最後に、来年何をやりたいかという抱負をどうぞ。来年も本と出会う場所をつくっていくのでしょうか。

幅  :そうですね。なるべくアウェイ感が強いところ、「容赦のない場所」で仕事をしていきたいと思っています。皆が文脈を共有できている場所は通じやすいし仕事もしやすいですが、そうではない場所で本棚をつくっていきたいですね。

嶋  :たとえば?

幅  :たとえば脳卒中のリハビリ専門の病院の本棚に『木村伊兵衛のパリ』を置いてみるとか。誰一人、写真家の木村伊兵衛さんを知らなくても、パリという地名が一人のおばちゃんに本を手に取らせ、その写真の持つ力が「いい写真集だねえ」と言わせ、さらには「足が動くようにがんばって、もういっぺんパリに行ってみたい」と思わせる。写真集が足を治そうというモチベーション喚起のツールになるわけです。このように、文脈の通用しない場所で、対話をしながらていねいに差し出して届かせていきたいと思っています。嶋さんはどうですか?

嶋  :「B&B」は開店以来ビールも販売しているんですよ。それは、僕もそうなんだけど、ビールを飲んで本を買えたら楽しいだろうなと思ったから。それは書店経営の素人だからできる発想だったかもしれません。開店してから「こぼしたらどうするの?」とか「そんなことやらないほうがいい」とか言われました。でも、おもしろそうで、本が売れる可能性があるならチャレンジした方がいいと思うんです。

幅  :身体が気持ちいいって、ものすごく重要なことですからね。最近、椅子がある本屋さんが多いのもそういうことだと思います。ちょっとゆとりができると、もう一冊手に取ってみようかと思えてくる。

嶋  :イベントを毎日やっているのも、大変だと言われてもやりたいからやっている。同じようにやりたいことはまだまだいっぱいあるんです。たとえば本屋に泊まるとか。

幅  :それ、いいですね! ハンモックで本屋に泊まるとか?

嶋  :そうそう! 本屋でやりたいことがあったら皆さん、どんどん言ってください。まずは泊まるイベント、ぜひやりたいですね。まあ、とにかく、そうやって、「これはできる」「これは無理だな」と日々、自分の中で戦っているわけです。そうして少しずつ進化していければいいと思っています。

幅  :いいですねえ。では、今日はこのあたりで。ありがとうございました。

本と、それを届ける本屋を熟知した二人の語らいは、本屋の魅力とその利用法から、彼らならではの本屋情報まで盛りだくさん。著者や本にまつわるエピソードにギャラリーは時に笑い、感動しながら本の世界を堪能しました。最後は本屋経営の裏話にまで飛び出した、本好きにはたまらない2時間となりました。

幅允孝

ブックディレクター
BACH(バッハ)代表。人と本がもうすこし上手く出会えるよう、様々な場所で本の提案をしている。新宿伊勢丹本館地下2階「ビューティアポセカリー」や、羽田空港と原宿にある「Tokyo's Tokyo」などショップでの選書や、千里リハビリテーション病院のライブラリー制作など、その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたる。著作に『幅書店の88冊』(マガジンハウス)がある。www.bach-inc.com

嶋浩一郎

編集者、クリエイティブティレクター
1968年生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。スターバックス コーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長を務める。2004年、「本屋大賞」を 立ち上げる。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」を設立。カルチャー誌『LIBERTINES』(太田出版)共同編集長、食材カルチャー誌『「旬」がまるごと』(ポプラ社)プロデューサー、エリアニュースサイト「赤坂経済新聞」編集長など、メディアコンテンツにも積極的に関わっている。編著書に『CHILDLENS』(リトルモア)、『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー21)、『企画力』(翔泳社)、『このツイート は覚えておかなくちゃ。』(講談社)、『人が動く ものが売れる編集術 ブランド「メディア」のつくり方』(誠文堂新光社)がある。

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