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GRAPHIC TRIAL 2012 ギャラリートーク 三星安澄×野老朝雄×鈴野浩一

「GRAPHIC TRIAL 2012―おいしい印刷―」に参加した三星安澄氏、アーティスト/デザイナーの野老朝雄氏、建築家の鈴野浩一氏の3名によるギャラリートーク。(於:印刷博物館P&Pギャラリー、2012年8月7日)

「GRAPHIC TRIAL 2012―おいしい印刷―」の展示会場である印刷博物館P&Pギャラリーにて、「ギャラリートーク 三星安澄×野老朝雄×鈴野浩一」が行われました。 「グラフィックデザインと印刷といったジャンルを越えた話をしたい」という三星氏の思いから、美術、建築分野などで幅広い活躍を見せる野老朝雄氏(TOKOLO.com)と鈴野浩一氏(トラフ建築設計事務所)を招いた今回のギャラリートーク。三星氏が今回発表したグラフィックトライアルの作品に関するエピソードを中心に、興味深いトークが繰り広げられました。

ものづくりに対する姿勢

普段から親交のある3氏。リラックスした雰囲気のなか、トークはスタートしました。

三星  :この3人には共通項があって、それは「建築」なんです。僕はプロダクトやグラフィックデザインの仕事をしていますが、大学時代は建築を専攻していて。ですから、僕のものづくりの基礎とか考え方は、建築にあるんです。「グラフィックトライアル」はグラフィックデザインと印刷の展覧会ですが、今日はグラフィックデザインに留まらず、多角的なお話ができればと思ってお二人をお招きしました。野老さんは僕のお師匠さんで、もののつくり方や考え方を教えてくれた人。野老さんの作品をご覧になっていただければお分かりになると思いますが、つくるものの趣向や好きなテイストなど、僕はとても影響を受けています。

野老  :三星さんに出会ったのは僕が30歳で、彼が19歳のとき。もう10年以上の付き合いになりますね。今回、「グラフィックトライアル」という素晴らしい場に彼が抜擢してもらえて、僕もとても嬉しいんです。

三星  :ありがとうございます(照)。鈴野さんは3年ほど前、僕がデザインディレクターをしている「かみの工作所」というプロジェクトに関わっていただいて、それからいろいろと一緒にお仕事をさせてもらっています。鈴野さんって、淡々と、さらりと作品をつくっているように見えるのですが、実はスタディの鬼(笑)。

鈴野  :そうかもしれないですね。例えば「かみの工作所」でつくった「空気の器」は、模型だけで40個以上つくりましたね。

三星  :その模型も0.1ミリ単位の差で作っていたりして、「1ミリと0.9ミリの差って何!?」みたいな(笑)。でも、そうした執拗なまでにスタディを重ねる姿勢って、今回の僕のトライアルの過程とも似ているんです。グラフィックとプロダクト、ジャンルは異なるけれど、「ある高みを目指して何度も試行錯誤を重ねる」という姿勢は通じるものがあります。

「モアレのひかりもの」へのステップ

会場に展示されているテスト刷りや作品を見ながら、トライアルの過程について3氏のトークが進みました。

三星  :「グラフィックトライアル」への参加が決まってから、過去の作品やさまざまな印刷物を見せていただいたんですが、その中にわざとモアレを発生させたものがあって。ふわりと模様が浮き上がるようなモアレの不思議な様子が、とても素敵だったんです。それがきっかけで「モアレをデザインしたい」と思いました。モアレの他にも「錯視」に興味があって、初回のテストでは錯視の実験もしました。実は、今回のトライアルでは錯視を突き詰めていこうかとも思っていたんですが、あるときに担当のプリンティングディレクターの方が錯視に関する作品集を見せてくれたんですね。でも…それって、勝井三雄さんの作品集で(笑)。僕がやりたいと思っていたことは、すでに勝井さんがずっと以前に具体化されていたんです。

鈴野  :もしもその作品集を見るのがあと2か月遅かったら……?

三星  :危なかったですよね(笑)。そういった経緯もあってモアレに絞ったんです。知らずに進めてしまった錯視のテスト刷りもここでは展示しているんですが、ある意味失敗なんですよ。でも、「グラフィックトライアル」の面白いところって、そういう失敗しちゃった過程まで見せることだと思っています。それで、ここから改めてモアレとはどういう現象なのかを勉強しようと思ってスタートしました。モアレって、規則的な配列の網点を持った版がずれて重なったときにできる現象なんですね。でも版と版の角度をずらせばずらすほど発生するという訳でもなくて。じゃあその角度は何度なのか、まずはそういう初歩的なことから検証しました。

鈴野  :なるほど。面白いですね。

三星  :でも、角度だけだといわゆる普通のモアレしかできないんです。モアレを成すものは、網点の濃度や配列。網点の形やサイズを変えたり、その結果でどういったモアレができるのか、トライアルの初期の頃はそうした実験をひたすら重ねました。最初は1色で、その次は2色でというように、だんだん版を増やしたりして。2色だとデータをつくっているときにモニターの画面上でモアレが確認できるんです。だから、ある程度刷り上がりも想像できる。でも、3色、4色になると、モニターの画面がパスでいっぱいになってしまって、刷ってみないと分からない。それで実際に印刷に立ち会わせていただくこともたびたびありました。版が刷り重ねられるにしたがって自分がイメージしていた色やパターンが出て、「あ、これはいける!」と思って。そこからまた徐々に、色の組み合わせや使うインキ、用紙の特性を考えたりしながら、最終作品につなげていった感じです。

野老  :もはやモアレマスターですね(笑)。

「おいしい印刷」へのアプローチ

今回の「グラフィックトライアル」のテーマ「おいしい印刷」に対してどのようにアプローチしていったのか、野老氏、鈴野氏からの質問に三星氏が答えました。

三星  :テーマは「おいしい印刷」なんですが……。

野老  :そうですよね。どうしてモアレで「おいしい」なのかなとずっと思っていて(笑)。

鈴野  :他の方はモチーフが食べものだったりと、「食」にまつわる作品がたくさんありますよね。三星さんは、そうしたアプローチは考えなかったんですか?

三星  :正直にお話しすると、「おいしい印刷」というテーマはとても難しくて、最初は考えずにトライアルを進めていたんです。モアレに没頭しつつも、これをどうやって「おいしい」につなげていこうかとずっと悩んでいました。でもある時、金や銀の刷り順を検討したテストがあって、その刷り上がりをいっしょに見ていた人が「魚のウロコみたいですね」と言ってくれて、すかさず「それだ!!!」って(笑)。それで「ひかりもの」にしたんです。

野老  :それがすごいですよね。いわゆる「おいしい」を連想させるようなものからは全く関係のないところからスタートしているのに。それを許してくれる凸版印刷の方もすごい(笑)。

鈴野  :本当ですよね。やっていることはひたすらモアレでも、どこかで「おいしい」につなげなきゃとは思っていたんですね。

三星  :それはもう必死で…(笑)。

野老  :テーマはさておき、作品はどれも実験的でマニアックですがとても美しいですよね。ある意味視覚的な「おいしさ」があるというか。美術館などに所蔵されている作品のような、そうした完成度の高さがある気がするんです。版画は、英語で「プリント」と言いますが、版画が額装された瞬間にアートになるように、これらの作品もアートになっていると僕は思います。

鈴野  :そうですね。モアレはそもそも縞の干渉という意味なのですが、もはや縞を超えて面になっていますよね。一見するとモアレに見えないけれど、近づいてみるとちゃんとモアレになっている。バリエーションもあって本当にきれいです。

三星  :ありがとうございます。今回のトライアルでは、モアレのつくり方も公開したいと思ったんです。モアレを一からつくるのはとても難しいのですが、ロジックさえ分かれば簡単につくることができます。最終作品にはモアレのチャートがあるのですが、これはいわばモアレのレシピ。網点の角度や形、大きさなどを変えたバリエーションを一望できる一つの作品にしています。

野老  :そうしたテクニカルな部分を落とし込もうとするとそれなりにしかまとまらないのですが、作品として成立している点も素晴らしいですよ。

三星  :見てくださった方が「楽しかった」「分かりやすかった」という感想を言ってくださるのが嬉しかったですね。重ねる、ずらすなど、アイデア自体はシンプルなのですが、そういうシンプルさを突き詰めていったら大きな模様ができたように、諦めないでやり続けて作品を生むということの面白さを改めて知ったような気がします。野老さんや鈴野さんの作品づくりに対する考えとか、こだわりとか、そういうことを見てきたおかげで、この作品をつくるときも「自分ももっと頑張ってみよう」と思えた。それでここまで来れたと思っています。

野老  :見る人をはっとさせるような、そういう力がこの作品にはありますよね。思いつきでぱっとできるような作品ではない。積み重ねがあってこそできる作品です。そうした姿勢も三星さんらしいんですよね。

作品をつくるときに心がけていること

いよいよ迎えたギャラリートークの終盤。来場者からさまざまな質問が寄せられました。

――作品をつくるとき、グラフィックデザインなどの業界にあまり関係のない、いわゆる一般の方にもこうした印刷物の美しさを伝えようと考えていたのですか?

三星  :例えば年賀状を自分のパソコンでデザインしてプリンターで出力したり、そういった意味では誰にとってもデザインや印刷は身近なものであるとは思うんです。でも、僕は作品を一般の方にどんな風に届けようかと考えたことはないかもしれません。野老さんはありますか?

野老  :自分もあまり無いんです。でもデザインを学んでいる学生さんには、そういうことも少なからず意識して、独りよがりにはならないでほしいなあ。

鈴野  :そうですね。今回、一般の方がこの展覧会を見たとしても、決して無感動じゃないと思うんです。

三星  :他の方の作品も本当にすごいですしね。グラフィックトライアルでは、最終のグラフィック作品だけでなく、こういうロジックがあって、こういう積み重ねがあってとか、最終作品に至るまでの経緯を説明することで感動のフックになったり、そういうことはあるのではないでしょうか。

――「グラフィックトライアル」や「かみの工作所」では、良いチームがあるからこそ、できる部分も大きいと思います。自分の頭にあるイメージを共有する際、心がけていることがあれば教えてください。

三星  :「グラフィックトライアル」で言えば、担当してくれたプリンティングディレクターの方や印刷現場の方とこまめに会ってコミュニケーションを取るようにしていました。僕は印刷のことに関してあまり詳しくなくて、でも、分からないなりにできることはなんでもしようと思っていて。そうしないと乗り切れないと思ったんです。直接会って、会話を通して作品のヒントになるようなフィードバックがたくさんあったりして、そのおかげでできたと思っています。

鈴野  :「かみの工作所」では、僕とか三星さんとか、みんな「負けたくない!」という思いがすごく強いですよね。だから決して手を抜けないんです。それが功を奏しているのかなと思っています。

三星  :そうそう、みんな負けず嫌い! 子どもの言葉で言うと「意地の張り合い」、大人の言葉で言うと「切磋琢磨」といったところでしょうか(笑)。でも、僕もそれがあるからこそうまくいっているんだと思いますね。

――お仕事をするときに考えていること、テーマにしていることがあったら教えてください。

野老  :僕は結構シンプルで、「つなげていくこと」。それから、「そのときのコンディションでできることは何かをさぐる」でしょうか。「この材料しか無いからこれしかできなかった」ではなく、「これとこれがあるけれど、何ができるだろう?」と考えるというか。

三星  :僕もコンディションは大切にしていて、野老さんから学んだことなんです。今回の作品は平台校正機という印刷機で刷っているのですが、この印刷機で何ができるのかというところもポイントだったんですね。ですから、現場に行ってその印刷機を見学させてもらったり、刷り出しに立ち会ったりしていました。

鈴野  :アプローチの仕方とか、僕もお二人とすごく似ています。それから、お二人には面白いところがあるんですよ。三星さんがモアレにまっしぐらになったり、野老さんのそこにないものを追求していったりしている時って、「人にこんな風に見てほしい」というところがあまりないんです。

三星  :確かにそうかもしれない。つくっているときは「これ、絶対売れる!」と本気で思っているんですけど実際はそうでもなかったり、自信のある作品を他の人に「これ、どう?」って見せても「あ、三星さん好きそうだね」としか言われなかったり(笑)。

野老  :10年後とかだったら変わってるかもよ? まだちょっと早すぎるのかも(笑)。

鈴野  :でも、そのアプローチの仕方自体がお二人の特徴だと思うし、それがそのまま面白い仕事や作品につながっているのがすごいと思うんです。

「グラフィックトライアル」の作品に対する思いやものづくりに対する考えなど、3氏の新たな一面が見えたギャラリートークとなりました。

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