TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.13 GRAPHIC TRIAL 2012 −おいしい印刷−」

「GRAPHIC TRIAL 2012」をふり返りながら、参加クリエーターに作品のコンセプトや今後のメディアについて語っていただきました。

毎年、様々な分野で活躍されているクリエーターが、実験を重ねてオフセット作品をつくりあげてきたグラフィックトライアル。第7回目となる今回も、恒例のトークイベント「デザイントーク in TOPPAN vol.13 GRAPHIC TRIAL 2012 −おいしい印刷−」(2012年7月28日、印刷博物館グーテンベルクルーム)が開催されました。 参加クリエーターの勝井三雄氏、AR三兄弟の長男こと川田十夢氏、森本千絵氏、三星安澄氏、竹内清高氏に加え、各クリエーターとタッグを組んだプリンティングディレクター(以下PD)の高本晃宏氏、渡辺孝氏、歩田信之氏、立木令央氏をゲストに迎えてトークが繰り広げられました。

第一部
「グラフィックトライアルについて」

イベントの前半は勝井氏、森本氏、三星氏、竹内氏と、それぞれの担当PDの総勢8名によるトークです。印刷博物館学芸員の寺本美奈子氏の進行で、作品のコンセプトやトライアルでの発見などが語られました。

――構想段階から作品完成に至るまでのプロセスは?


▲左から勝井三雄氏、PD高本晃宏氏

勝井  :テーマが「おいしい印刷」だったのですが、このテーマにはとても悩んでしまいました。「おいしい」は食や味覚のほかに、拡大解釈すればさまざまなことを表現できてしまう言葉です。漠然としているし、「おいしい」と印刷をどうつなげればいいのだろうかと思いましたが、結局、「食」にターゲットをしぼりました。当初の構想では、野菜をモチーフにして新鮮さやシズル感を感じられるものにしたいと思っていたんです。それからもう一つ、野菜種の「トータルな形」を表現したかった。例えば同じ野菜種であっても、個々に異なる形をもっていますよね。それらのシルエットを重ねることで、野菜種の「平均顔」が出てくるのではないかと思いました。

PD高本:そのために卵や何種類もの野菜を高解像度カメラで撮影しました。今回はリアルな質感が求められたため、カメラによる撮影のほか、スキャナーによる取り込みも行っています。後者のほうが被写界深度は深いのではないかと考えていましたが、結果的にはカメラで接写したほうが精密で、野菜の表面のしわといった微細なニュアンスがよく出ましたね。

勝井  :そのような形のグラデーションの次に、いよいよ色彩のグラデーションの追求にうつりました。グラデーションは私の長年の研究テーマですが、今回のトライアルではどれだけなめらかなグラデーションをつくれるかを追求しています。何度もテスト印刷を繰り返しましたね。卵をモチーフにした作品ですと、最終的に使用したインキは卵の部分はプロセス4色、殻の亀裂は特色蛍光色1色、グラデーションは特色2色のみ。それでもこれだけ豊かな表現ができました。

PD高本:グラデーションは僕にとっての研究テーマでもありました。例えば、薄い色のインキを盛って刷るグラデーションと濃いインキで刷るグラデーションはどちらがきれいに表現できるのか。そういう色の組み合わせや刷り回数など、何度もテストを行いました。


▲左から森本千絵氏、PD渡辺孝氏

森本  :最初に「おいしい印刷」というテーマを聞いたとき、私も勝井先生と同じで、難しいなと思いました。いろいろ悩んだ結果、モチーフは私が日記を書くように毎日つくっているコラージュをメインにすることにしました。なぜコラージュが「おいしい」なのかというと、ワインのソムリエをしている知人がきっかけなんです。同じ銘柄のワインでも、その人がグラスに注いでくれたものはなぜか特別においしいのですが、そのことやその人のことをコラージュにしたことがあるんです。そうしたらそれを見た知人が「おいしそう、お店に貼りたい」と言ってくれて。そのとき、食べもののことだけじゃなくて、人との出会いや素敵なできごとなど、すべてが私にとってのエネルギーや栄養であり、おいしいものになっているんだなと思ったんです。だから今回も自然と「おいしい」から「じゃあコラージュをテーマにしよう」って思ったんですね。 コラージュにはさまざまな種類の材料を使っていて、雑誌の切り抜きや段ボール、板や木の葉、それから、土とか……。そのときに手元にある材料を、その日に発行された新聞にコラージュしているんです。ばらばらの質感、あらゆる思い出。これらが印刷によって1枚の紙にどのように定着するのか、見てみたいと思いました。

PD渡辺:それらの実物が持つ質感や積層感を印刷で再現することが最大の目標でした。今回、私が大切にしたことは森本さんの「思い」です。確かに材料は多種多様なのですが、その一つひとつにも森本さんの「思い」が込められていると思ったんです。「新聞コラージュ」は、森本さんが体験した生の情報であり、作品ですから。

森本  :簡単だと思っていたことが、実際には難しかったこともよくありましたね(笑)。例えば、「ペガサス」の作品は全体のトーンは青1色でまとまっているのですが、ひと口に青といっても、海だったり、宇宙だったり、それからクレヨンで描いてあったりとか、実にいろいろな青を乗せていて……。

PD渡辺:そう、青は印刷屋泣かせの色なんです(笑)。淡い青、濃い青など、ニュアンスも素材もいくつもあって、それぞれの色や質感を出すのは苦労しましたね。でも、あえて特色を使わずに刷っています。金色が印象的な「お正月」のコラージュも、金のインキを使わずにメタリックな用紙にプロセス4色で刷っていて、私にとってもトライアルでした。


▲左から三星安澄氏、PD歩田信之氏

三星  :あるときに見せていただいた作品に意図的にモアレを発生させたものがあって、それがとても美しかったんです。これがきっかけで、モアレをコントロールすることで面白い作品ができるんじゃないかと思いました。でも、PDの歩田さんには「モアレを消す技術はありますが、つくる技術はないんです」と言われて。

PD歩田:そう、モアレは本来、印刷トラブルなんです。PDは印刷表現について相当の知識を蓄積していますから、モアレを「消す」方法は知っています。でも、「つくる」という知識はほぼゼロ。ですから今回は私も一緒に勉強させていただいた感じです。

三星  :トライアルの過程を見ていただくと着実に進んできたように思われるかもしれませんが、実際のところはテスト刷りのたびに「今、紙の上で起きているこの現象は何だろう、さらに美しくするためにどうすればいいのだろう」と、悩んでばかりだったんですよ。

PD歩田:私はひたすら用紙やインキ、線数、網点の形といったあらゆる項目を整理してお伝えして、アイデアにつなげてもらえればと思っていました。正直、「おいしい」に落とし込むよりも、とにかくモアレをコントロールしてもらえればと思っていましたね(笑)。三星さんには毎週のように現場に来ていただいて、密なコミュニケーションをとることができました。

三星  :いろいろなことを教えていただけて、打ち合わせはまるで「印刷教室」のようでしたね(笑)。そうしたやりとりを経て少しずつ積み重ねていった感じです。


▲左から竹内清高氏、PD立木令央氏

竹内  :私は普段、食品などのパッケージデザインに携わっているのですが、テーマがなかなか決まらなかったんです。そこで、まずは普段の仕事でやっていること、例えば明度や彩度、シャープネス、色数などについてあらためて検証することから始めました。

PD立木:“隠し味”と“仕上げ”というキーワードが出てからは順調に進みましたね。通常の印刷物ですと「おいしさ」を表現するとき、データや印刷濃度の調整がメインとなりますが、今回は特色やニスなどを“隠し味”や“仕上げ”として使うことで表現の幅が広がったのではないかと思います。

竹内  :そうですね。パッケージデザインではプロセス4色、特色1色、ニスという組み合わせが多いのですが、その枠を外し、脱コモディティ化を図りたいとも考えていました。近年、プライベートブランドとナショナルブランドの境界線はぼやけていて、今までと同じ条件でデザインしても表現が進化していかないと感じていたんです。

PD立木:今回は“隠し味”と“仕上げ”をチャート化して実験しているので、ぜひ今後の仕事でも参考にしていただければ嬉しいです。

――作品づくりを通じて感じたことや、見どころは?

勝井  :ダ・ヴィンチは『モナ・リザ』などを描く際、スフマート技法を用いているんです。筆のタッチではなく指の先で点を置いていく技法と言われ、細かい点の集積で諧調を付けている。その時とっさに考えたのは、500年も前の印刷技術の出発時点で、絵画は印刷の未来を見ていたということです。印刷物も極小の網点で構成されていますから、通ずるものがありますよね。物体の輪郭は光と影や空気中にある粒子で立ち現れます。ですから、線では表現しきれないのです。それからもう一つ、先ほど高本さんからも話がありましたが、今回は6000万画素の高解像度カメラでモチーフを撮影しています。そのおかげで卵や野菜の表情をかなり精細にとらえることができています。ぜひ間近でも見ていただきたいですね。野菜や卵のディテール、グラデーションのなめらかさをつくる「粒子」を、何十倍も拡大印刷した時、高解像度画素から追求できたらと思っていたからです。

森本  :つくるときはあまり意識していないのですが、完成した「新聞コラージュ」を見ると、材料やモチーフだけでなく、画線がにじんだり紙が破れたりしたところ、材料の間からかすかに透けてのぞく新聞の地など、そうしたささいなニュアンスでさえも私にとってはコラージュを織り成す大切な要素なのだと感じました。でも、ニスなどによってある一部分をすごくリアルにすると、そうしたささいなニュアンスの印象が弱まって、全体を俯瞰すると「嘘」になってしまう。そのバランスを見出すのが難しかったですね。テスト刷りと最終作品を見比べたり、「どうしてここはこうしているのだろう?」と想像しながら見ていただくと、その過程が分かると思いますよ。

三星  :今回、僕は網点の形や配列など、とても小さな「構造」からデザインしています。ですから、ぜひルーペで見ていただきたいです。今回のトライアルは基礎研究だと思っていて、表現の可能性はまだまだ広げていけるはず。機会があればこの研究の続きをやってみたいです。

竹内  :特に“隠し味”に関してですが、オフセット印刷のインキの被膜の薄さが功を奏したと思っています。また、チョコレートの色とは相反する特色蛍光色でも、濃度によっては絶妙な「味」になったことも発見でした。

それぞれのトライアルが語られた後、勝井氏からは

勝井  :表現を先行させてしまうのでなく、各人が印刷という技法に真っ向から対峙している。それぞれが課題を見つけ、着実に努力や工夫を積み重ねてきた成果が最終作品に現れていて、とても見ごたえがありますね。過去7回で最も充実した展覧会となったのではないでしょうか。

第二部
「コミュニケーションメディアについて」

イベントの後半のテーマは「コミュニケーションメディアについて」です。 今回、AR三兄弟と共同し、グラフィックデザインとAR(拡張現実)を融合させることで新しいコミュニケーション手法を打ち出した勝井氏。AR三兄弟とのコラボレーションに至った経緯から、全クリエーターによるこれからのコミュニケーションメディアの可能性などについて、前半に引き続き寺本氏の進行のもと、AR三兄弟の長男こと川田氏も参加したクリエーター5名によるトークセッションが行われました。

――コラボレーションのきっかけと制作の過程は?

勝井  :AR三兄弟との出会いは彼らの展覧会で、そのときに初めてARを間近にしました。特に、雑誌や洋服の商品タグを拡張した作品がずっと印象に残っていたんですね。雑誌も商品タグも、紙に刷られた印刷物。印刷物とデジタルメディアが融合することでほかの次元に飛んでいけることが、とても興味深かったんです。今回のトライアルでは紙から立体的なコミュニケーションをつくってみたいと思い、AR三兄弟にオファーしました。

川田  : 今回の勝井さんの作品を見たとき、あまりの完成度の高さに圧倒されてしまって「すでに完成されているんだから僕らの入る余地なんてない」と思ったりしました(笑)。テーマは「おいしい印刷」ということで、ぱっと思いついたのは「味覚」。作品は5点でしたし、五感を拡張することを提案させていただきました。

勝井  :それぞれの作品と感覚がいかにマッチングするのか、とても楽しみでしたね。

川田  :勝井さんとのミーティングはいつも刺激的でした。お互いのジャンルは異なるのに、なぜか不思議と会話が成立するんです。例えば「聴覚」で「めくる」というアクションを加えたかったのですが、どんな動線にしようかと悩んでいたとき、勝井さんから「パズルにしよう」というアイデアが出て、それですべてが完成された感じです。


▲AR三兄弟長男の川田十夢氏(右)

――ほかのクリエーターのトライアルとコラボレーションするとすればどのように「拡張」したいと思いますか?

川田  :森本さんは、これまでの作品でも拡張現実してきた方。「新聞コラージュ」にしても、その日に発行された新聞にその日のできごとをコラージュすることは、新聞というメディアの拡張ですよね。新聞って、きっと人によって読み方が違うと思うんです。誰がどんな記事をどう読んだか、それがわかる新聞をつくってみたい。森本さんはそれをコラージュでやっているんだと思います。

森本  :たしかに新聞と自分という関係に、第三者的な何かが加わることで新しいものになるというのは面白そうですね!

川田  :三星さんは網点のようなごく小さなものからデザインし、全体に作用させるというニュアンスがとても面白かった。つまり、ものごとの「構造」から見ているんですね。僕にもそういうところがあって、その感覚は隣り合っているなと感じました。例えば小説などの、あらすじしか書かれていない物語があって、そこから気になるシーンをどんどん掘り下げていけるような、そうした「構造体」をつくってみたいと思いました。

三星  :たしかに、印刷物以外でも「構造」ってあると思うんです。音楽なら、ある音にほかの音を重ねることで和音やハーモニーになる。そうすることで別の音楽が生まれるかもしれない。グラフィックデザインとARで、そうした「組み合わせ」のようなことができたらいいですね。

川田  :竹内さんはチョコレートの質感を表現していらっしゃいますが、それを「拡張」して感覚にリンクを張れるようなものをつくってみたいです。食品パッケージって、パッケージの内側と外側にあるものの接点。それにハイパーリンクをほどこして甘さや辛さなどの味覚を感じられるようなものができればと思います。…僕、何か不思議なこと言っていますか(笑)?

竹内  :いや、とても面白いです! 実際にQRコードやARなどをパッケージに仕掛けて別のアクションを起こすという動きは少しずつ広がっていますね。感覚にリンクを張るというアイデアも、ぜひとも実現させてみたいです。

――最後に、これからのメディアの可能性について教えてください。

竹内  : パッケージデザインに関してですと、触り心地をプラスして中身の商品そのものを実感覚としてとらえたり、そうした進化をさせることができると思います。ビジュアルだけで伝えるのでなく、手に取ってもらったときの感覚をもデザインすることで余すことなく商品の魅力を伝えるような、今までになかった表現ができるのではないでしょうか。

三星  :電子メディアが進化し続けても、紙の魅力はこれからも人々の心に根付き続けるものだと思います。誰もが幼いころ、折り紙をつくったり、工作の材料として使ったことがあったりと、経験を通じて自分の手で加工ができるという面白さを知っています。なじみのある素材だからこそ、紙による新しい表現ができると感動するんですね。そうした気づきを与えられるようなものを、これからもつくっていければと思っています。

森本  :メディアそのものは発展しているんだけれど、実はより動物的になっているのかもしれないと思うことがあるんです。iPadがそうですが、指でタッチしてモニターにあるものを大きくしたりと、身体を直感的に使って操作しますよね。ですから、どのようなメディアでも動物的な感覚を失わずに伝えていくといったような、より良い方向に進化し続けるのではないでしょうか。

勝井  :例えばtwitterは、誰かのたった一つのつぶやきが伝わることで大きな波がかたちづくられることがあります。僕は、多彩なひらめきの相乗から質の高いコミュニケーションを生み出せないか、そうしたかたちをつくっていきたい。紙、デジタルといったメディアの枠を越えて、すべての人にとって心地良くて気持ちが通じ合うようなものをつくり出したいですね。

印刷の魅力はもちろん、今後のコミュニケーションメディアのあり方についても興味深い意見が飛び交ったあっという間の2時間。充実したトークイベントとなりました。

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