TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.12 電子雑誌のつくりかた 「アプリをつくってみたものの…」

トークショーレポート

2011年11月26日(土)に開催した「デザイントーク in TOPPAN vol.12」では、『Houyhnhnm』iPad版に携わったアートディレクターの野口孝仁さん、『Houyhnhnm』発行人の蔡俊行さん、アプリ開発を担当された植野博さん3名にお越しいただき、電子雑誌のつくりかたをテーマにお話しいただきました。野口さんの進行で、電子雑誌をつくろうと思ったきっかけから苦労話や成果を中心に、興味深いトピックがたくさん飛び出しました。

電子雑誌のパイオニア3名による、本音のトークショーです。

●電子雑誌『Houyhnhnm』iPad版リリース秘話

野口:今、出口のない出版不況と言われています。ウェブ上では無料でさまざまなコンテンツが読める中で、果たして有料の新聞や雑誌は生き残っていけるのか。僕自身、ずっと雑誌のエディトリアルデザイナーをやってきて、大変な危機感を持っていました。とある編集者がツイッターで「これからの雑誌のデザインはウェブデザイナーがするから、エディトリアルデザイナーはいらなくなっちゃうかもね」とつぶやいていたのを見て、気になって話を聞きに行ったんです。それで、当時話題になっていたアメリカの電子雑誌『WIRED』を開発したのがAdobe社ということで、Adobeの人を紹介してくれました。

蔡 :以前からウェブマガジンをやっていたから、iPadにはすごく可能性を感じていましたし、発売されてすぐに購入しました。でも、いざ手に入れたあと、コンテンツをどう作ったらいいかがわからなくて。野口さんに相談したら、Adobeの人を紹介してくれて、そののち、Adobeと取引のあるプロフィールドの植野さんにつながったんですよね。

野口:蔡さんも僕も、アプリケーションのことは全然わからないので、植野さんとは共通言語を持っていないような状態でした。僕の会社に新たにウェブディレクターを入れて通訳係になってもらいましたが、相当やりとりをしましたよね。大変ではありませんでしたか?

植野:そうですね。出版系のデザイナーの方は、平面でデザインを考えられますよね。一方、アプリケーションは3次元的であり、立体的な動きをします。デザインとプログラムのマッチングは確かに難しかったです。それから、1番難しかったのはデータのサイズです。紙の場合は高画質なものを印刷するのが普通でしょうが、アプリでそれを実現しようとすると、数百ギガ必要になってしまいます。そのあたりを説明しながら、妥協点を見つけていかなければなりませんでした。

野口:編集の面でも、プラスアルファのご苦労があったかと思いますが、いかがでしたか。

蔡 :基本的には雑誌をつくるのと同じ手間がかかるのですが、電子雑誌はコンテンツ量が多くなります。たとえば、1つのテーマの中で3スタイルのファッションを紹介しているとすると、1ページつくるのに内容が3ページ分あるわけです。写真も3つ、キャプションも3つ。編集者は大変だったと思いますね。それから、撮影費や原稿料はページ単価で計算するのですが、では、これは何ページなのかという問題もありました。雑誌なら問題ないのですが、こういった新しいデバイスとなると、ギャラをどうするかもまだ整備されていないのです。

野口:タッチすると360度回転する洋服など『Houyhnhnm』にはいろいろなアイデアが盛り込まれていますが、ほとんどは蔡さんが出してくれたものです。僕はまだまだアナログな感覚なので、新鮮でした。蔡さんはウェブマガジンをやられていますから、そこで培った感覚があったのですか?

蔡 :360度回転する洋服は、以前からやりたいと思っていたアイデアです。トップスとボトムスを組み合わせて簡単にコーディネートが楽しめる仕掛けもそうです。ウェブでは、Flashを使えば動きをつくることはできますが、指で動かすことはできません。こういう楽しさは、アプリならではですよね。

野口:ウェブとアプリでは、できることがそれぞれ違うのでしょうか?

植野:ウェブは基本的にはHTML上でFlashやJavaScriptを動作させて動きをつくるので、どうしてもブラウザに依存します。レイアウトが限定されてしまうんですね。一方、iPadのアプリiOSなら、立体のものを自在に回転させることもできますし、ページの移動も自由です。アプリはある程度の画像を内包することができますが、ウェブは通信状態でのダウンロードが必要なので、それも違いですね。

●電子雑誌『Houyhnhnm』iPad版リリース秘話

野口:iPad版『Houyhnhnm』は昨年9月末にリリースして、App storeのライフスタイル部門2位という好成績を収めたのですが、1年たった今でも2号目が出ない状況です。何故なのでしょうか。課題や今後の可能性などお聞きしたいのですが・・・。

蔡 :結論から言いますと、1号のダウンロード数が1万に届かなかったからです。こんなにがんばって、各方面から広告料金をいただいたにも関わらず。
クライアントさんに報告に行ったときは、「まぁ最初だし、いいじゃない。面白かったし」ということで話は終わったのですが、2号目を出す予定だった今年3月の前に話をしにいったところ、やはり広告としての価値があまり感じられないと。
そもそもデバイスを持っている人が少なかったのが大きな原因と考えています。時期が早すぎたのかなというのが正直なところですね。

植野:なるほど。でも、アメリカの『WIRED』と同じようなものを国内でつくったということで、アプリ自体の評価は高いです。

野口:僕のところにもお問い合わせ自体はけっこうあるのですが、仕事にはまだ結びついていませんね。よくあるのが、紙のカタログをつくって、おまけでアプリもつくってよ、という。時間と手間がすごくかかることが、まだ理解してもらえていないようです。挑戦する価値はあるけれど、ビジネスとしてはまだまだ成り立っていないと感じています。

●iPhoneアプリとAndroidアプリ

植野:iPadアプリはコンシューマー向けというより、企業向けのほうが普及していますね。社内ツールとしてiPadを活用しているケースが多いのです。出版系では断然iPhoneアプリですね。iPhoneアプリで言えば野口さんと一緒につくった…

野口:「Good Dayカレンダー」ですね。イラストレーターの大塚いちおさんと、ビジネスにはならないけれど、アイデアを1つかたちにしてみようということで協力関係のもとつくってみました。ところが、これが予想外のダウンロード数なんですよね。

植野:10月までで数十万ダウンロードくらいですね。びっくりしました。

野口:シンプルな操作性がよかったのではないでしょうか。スマートフォンは持っているけれど、まだ使えていない人がほとんどだと思うんです。アイデアを盛り込みすぎるとかえってよくないのかもしれません。

植野:「Good Dayカレンダー」もライフスタイル部門で2位になりましたね。

野口:また2位っていうのが悔しいですけどね。スマートフォンのほうでは、蔡さんは今後どんな取り組みを考えていますか?

蔡 : 今1番新しいアプリが「フォトギャラリー」ですが、アップルに申請中なので一般公開はされていません。WEBマガジン『Houyhnhnm』での連載の評判がよく、まとめて見たいという声があったので、アプリ化しました。でも、なぜか申請が通らない。1か月以上待っている状態です。

野口:僕が関わった別のアプリは申請が通るまでに9か月かかりました。アップルは審査の基準を公開していませんが、申請を通すコツをご存じではありませんか?

植野:アップルが提供しているサービスと競合するようなものは承認されにくいです。たとえば、pdfのページをめくれるようにしただけのものは、iBooksと競合しますから、ほとんど通らなくなっています。

野口:Androidのほうはどうですか?

植野:Androidは、インターネットの文化と同じなんです。オープンソースで、自由です。

蔡 :ただ、一般的に言われていることですが、iPhoneユーザーはアプリに関心が高く、Androidユーザーは関心が低いんですよね。行動スタイルがちょっと違うというのかな。Androidアプリももちろんつくりたいけど、まずはiPhoneで、と思ったんです。それにApp storeのランキングはPRになります。20位以内に入ると、人気を保証されたようなものです。ランキングに入っているから見てみようか、ということでダウンロードが増えます。

植野:それから、Androidの課題はセキュリティの脆弱性ですね。グーグルはすべてが見えても問題ないという自由な土俵でやっていて、Androidアプリはプログラムを見ることが可能です。たとえば何かAndroidアプリをダウンロードして、逆アセンブリをすると、すべてのコードが見えてしまい、中のコンテンツも抜き取ることができてしまいます。1時間もあれば海賊版ができるんじゃないでしょうかね。

野口:今後間違いなくAndroidは成長していくと思うのですが、アメリカの事情はどうですか?

植野: Android版有料アプリは、日本国内と同じようにあまり伸びていません。AdobeはAIRというプラットフォームを開発しましたが、AIRの様なアプリならデータの抜き取りもできませんので、Androidアプリも今後もっと広がる可能性はあります。

●B to Cは難しいか

野口:蔡さんはこれまでB to Bのビジネスをやってきて、収益の変動が大きく安定しないので、B to Cで会社の安定を図るという発想があったと思います。僕もB to Cのビジネスで会社を安定させたいという想いがあり、今回のアプリをつくってみたのですが、実際は厳しかったですね。

蔡 :2004年にウェブマガジン『Houyhnhnm』を始めた頃は、フリーペーパーのモデルでやっていくことを決めていました。読者からお金をもらうのではなく、広告で収益を上げるモデルですね。今は20万弱くらいのユニークユーザーがいて、PVも250〜500万くらいに安定しています。広告収入でそれなりにまわしていけるようになったところで、見てくださる人たちから、1人100円でもいいからもらいたいと思うようになりました。でも、1人100円でもいただくのは、ものすごく大変です。仮に100円出してもいいサービスになったとしても、どうやって徴収するのか。仕組みが大変ですね。

野口:ウェブマガジンを先駆けでやられていますが、最初からイメージ通りいきましたか?

蔡 :いえ、費用はかかるのに認知度が上がらず、大変でした。やる前はもっと簡単に考えていたんです。2004年当時、競合する雑誌は10万部〜30万部の部数が出ていて有料ですから。同じような情報が無料で早く読めるなら、見てくれる人がいると思ったんです。それが、なかなかそうはならなかった。この1〜2年でようやく手ごたえが感じられるようになりました。

野口:今のアプリの状況と似ているかもしれませんね。今回のアプリ制作も、簡単に考えて「これで仕事がバンバンきちゃうな」と思ったら、実際にはまったくそんなことはなくて。まだまだ先行型だったんですね。リリース後の宣伝方法はどうですか?

蔡 :ウェブマガジンのほうでも過去にいろいろなキャンペーンをやりました。バナー広告、キャンペーンサイト、PPC広告などです。ウェブ同士だとそれなりに成果は上がるのですが、WEBを紙媒体で宣伝しようとするとダメですね。マーケティングのために紙のフリーペーパー『Houyhnhnm』も年に4回くらい出していましたが、あまり効果はありませんでした。アプリのプロモーションは、ランキング上位になることが最も効果が高いと思います。

●今後の展望

植野:電子出版に関して、実は結構みんな仕込んでいます。パブリッシングの種類は、印刷、デジタルパブリッシング、ホップの3つ。ホップとは、縦に回転するとページがめくれ、横にいくと関連の動画が見ることができたりツイートできたりといった、もはや本ではない新しいカタチのものです。そういう工夫をするところが、今後勝っていくのではないでしょうか。

蔡 :引き続きウェブマガジンは発行していき、タブレットやスマートフォンに合わせたものも出して行きたいと思っています。我々はコンテンツをつくる側なので、容器にあったものをつくりたいということです。具体的にはまだわかりませんが、新しいことにチャレンジしていきたいです。

野口:僕はアナログで20年近くやってきました。昨年から、iPadの操作性に驚き、iPhoneアプリのアイデアにも感動しながら制作をしてきたのですが、やっぱり紙っていいなと思っています。今はパソコンでデザインをしていますが、手も体も動かしていた写植時代に比べ、脳だけがすごく動いて疲れるような気がしています。電子書籍もいくつか買って読みましたが、リアルな本のほうが脳の疲れが少ないというか。身体に合うものという意味も含めて、クロスメディアでやっていける方法を模索していきたいです。

蔡 :引き続きウェブマガジンは発行していき、タブレットやスマートフォンに合わせたものも出して行きたいと思っています。我々はコンテンツをつくる側なので、容器にあったものをつくりたいということです。具体的にはまだわかりませんが、新しいことにチャレンジしていきたいです。

電子雑誌にチャレンジしたからこそ見えてきたもの、海外のアプリ事情、成功事例なども含め、情報たっぷりの濃い2時間。会場からしばしば笑いも起こり、和やかなムードでトークが進行しました。最後に野口さんから、「僕たちと一緒に新しいことをやりましょうよ」と、凸版印刷に対する呼びかけもいただき、今回のトークショーは幕となりました。

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