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GRAPHIC TRIAL 2011「ギャラリートーク 祖父江慎氏×名久井直子氏」

グラフィックトライアル2011に参加した祖父江慎氏と名久井直子氏によるギャラリートーク。(於:P&Pギャラリー、2011年7月8日)

昨年から始まったグラフィックトライアルのギャラリートークにて、グラフィックトライアル2011に参加された祖父江慎氏と名久井直子氏に対談形式で自由に語り合っていただきました。ブックデザインの分野で活躍するおふたりは、日頃から親交がある間柄。自他ともに認める印刷好きのおふたりによる、ギャラリー内の作品を鑑賞しながらのアットホームなギャラリートークとなりました。

―会場に詰めかけたギャラリーの前に登場したおふたりの、「祖父江で〜す」「名久井で〜す」と息もピッタリの挨拶からトークがはじまりました。

●めざせ、トラブル!−祖父江氏のトライアル

祖父江:実は、最初はトラブルがテーマじゃなかったんです。ポスターだと絵柄に注目されがちですが、ポスターの存在自体が「じめじめ」「カサカサ」といった質感を感じさせるようなものにしたいと考えていました。でもそんな質感って、あまり種類がないんですよね。そこで、それならいっそわざとトラブルを起こして質感を表現しようとなったんです。でも、実際のところはテーマにするまでもなくトラブルだらけのトライアルだったんだけどね。

名久井:祖父江さんの事務所に遊びに行ったら、最初のテスト刷りがちょうど出校していて見せてもらいましたね。でも、なぜ『カレー印刷』にしたんですか?

祖父江:こんなにエコな時代なのに、インキじゃないと印刷できないなんて納得できない気がして。一度、自然素材の色を使って刷ってみたくて、カレーのスパイスを使ってみました。刷りたての時は淡いパステル調の4色刷りのようだったんですが、たった3日で退色してしまいました。

名久井:テスト刷りを見ると、確かに淡いグレートーンになってしまっていますね。

祖父江:考えてみれば、あんなに薄い層で色鮮やかに発色する通常のインキって、すごく濃度が高いわけですよね。最終的にはインキ色の強さを借りて刷りました。スパイスの色に合わせてインキを練り、本物のスパイスとメジウムと混ぜています。

名久井:インキの層がとても厚く感じますね、それに表面がジョリジョリしていて、ツヤもある。

祖父江:スパイスの粒と粒の間にインキが入り込んでいるからだと思いますよ。

名久井:次は『キズ印刷』ですね。

祖父江:傷をつけずに普通に刷ったものと比べてみると、いかに傷だらけかがよくわかります。いい意味で台無しな感じです。これは最近あまり使われていない製版用フィルムを金ダワシで思いきりゴシゴシ削って傷つけました。昔のフィルムはちょっと擦れただけで剥離してしまったものですが、今はとても丈夫になっていて亀の子ダワシくらいではびくともしなかったからもう金ダワシで傷つけちゃいました。フィルムとの格闘技みたいでしたね。 1番闘ったのがK版です。雑巾のようにぐちゃぐちゃにしてギューッと絞ったり広げたり、踏んづけたり。

名久井:踏んづけちゃったんですか?相当丈夫なんですね。

祖父江:フィルムを踏んづけたらすごい音がするものだから、周りで作業をしている人たちがビックリしてました。「ダメじゃないですかっ!」って怒られるかと思ったくらい。

名久井:それはドキドキしますね。工場の人が大切に扱っているものにそんなことしちゃって。

祖父江:CMYK版それぞれ傷つけたのですが、K版の時の傷つけ方をちゃんと記憶しておいて、方向や場所を考えながら他の版を傷つけて、案外気を遣っているんですよ。PS版に焼き付ける時もわざと密着させずに微妙に浮いた状態で露光させたり。

名久井:祖父江さんったら、フィルムにも機械にもひどいことしちゃったんですね。

祖父江:次は『ムラ印刷』、水負けの実験です。“ゴッドハンド”ことプリンティングディレクターの金子さんが水負けという印刷トラブルがあると教えてくれてまして。印刷は水と油の反発を利用しているので、水の量が多すぎるとキレイに刷れません。水を撒くタイミングと場所と量によって表情が変わるので、1枚として同じものがないんです。面白いでしょ。

名久井:インキにオペークホワイトのインキを混ぜていますね。インキを不透明にしたかったんですか?

祖父江:インキが不透明になると、下の色が隠蔽されて上の色が強く発色するので、不思議な効果が出るんです。でも、なかなか難しかったですね。青が強く出て怖い感じにならないように、青を1番下にして、赤、黄、黒と刷り重ねました。

名久井:次は『劣化印刷』ですね。

祖父江:昔、まだ紙が中性紙じゃなかった頃に金のインキを使ったんだけど、予算の関係でニス引きせずに済ませた本があったの。時間が経ってその本を開いたら裏ページにインキが写ってたんだけど、それがめちゃくちゃカッコ良くて。それを意図的に発生させようと頑張ったのが『劣化印刷』です。日が経つとボロボロになって、仏像のようなワビサビのある感じになるといいな〜と思ってます。

名久井:あれ?これ、オープニングで見たときの時と表情が変わってきたみたい…。1ヶ月でずいぶん印象が変化したような気がする。

祖父江:僕もそう思う!!シブい感じになってきていませんか?でもこれもなかなかダメになってくれなかったんです。

名久井:どんなことをやってみたんですか?

祖父江:酸化防止剤を添加していないインキを取り寄せてもらって刷ったり、インキが入っている缶のふたを開けっぱなしにしておいたり。

名久井:酸化させて錆びさせようというわけですね。

祖父江:だけどまったく大丈夫なんですよ〜。そこで、金子さんが「酢醤油をかけると錆びるらしい」と調べてきて…、

名久井:“ゴッドハンド”さすが!大活躍ですね。

祖父江:そうなんです。でもインキに混ぜただけではあんまり効果がなくて、紙に直接酢醤油をスプレーまでして、それから酢醤油を混ぜたメジウムを上から刷って・・・やっと表情が出てきた感じです。

名久井:時間が経ってからが楽しみですね。これからどうなっていくのかな。


祖父江:これが最後の作品『シミ印刷』です。室内に洗濯物を干すと湿度があがるでしょ、そんなニュアンスでつくってみました。

名久井:スケスケですね!

祖父江:てんぷらの敷き紙が油で透けている感じ。あのベタベタな感じをやってみたかったんです。この作品には透き通らせるための工夫満載なんですよ。

名久井:私も仕事で何回か透かしインキを使ったことがあるけれど、あまり透けてくれなかったんですよ。どうしてこんなに透けたんでしょう?

祖父江:紙もいろいろ試して、一番透けたハイメノウっていう用紙を使っています。さらに両面から透かしインキを刷って、ちょうど擦りガラスにテープを貼ったような効果を出しました。犬の絵柄の部分は差が出るようにオペークホワイトのインキで不透明にして差を出しています。

名久井:同じ白でも場所によってテカリ方が違って見えるところがありますね。どうしてでしょうか?

祖父江:単に透けるかどうかだけではつまらないので、雑巾で拭いたような感じでグロスニスを引いたんです。

名久井:いろいろやっていますねえ。

祖父江:本当に、トッパンさんはよくやってくれました。

名久井:噂では、祖父江さんの実験で機械が錆びちゃったとか…

祖父江:さすがに機械は錆びてないですよ!…たぶん。でも実は劣化印刷の時に、酢醤油入りインキでインキを調合するトレーが錆びだらけになっちゃったんです。

名久井:機械も頑張ったトライアルでしたね。スパイスでジャリジャリになったり、酢醤油刷ったり。ということで、祖父江さんのトライアルでした!



―次は名久井氏の作品を観ながらのトークです。名久井氏の2種類のトライアルのうち、まずは昔の絵本のようなニュアンスを現在の印刷技術でつくりだす『なつかし印刷』からはじまりました。

●なつかしい質感を探して―名久井氏のトライアル

名久井:昔の絵本の印刷って、ちょっと雑なところがかわいいなって思うんです。

祖父江:名久井さん「かわいいもの好き」ですよね。

名久井:好きですね。そんな感じを今の印刷の工程の中で表現できないかと考えました。

祖父江:その構想を聞いて、「そんな微妙なことをトライアルするんだ〜」と思ったんですよ。でも昔の印刷は、色が今とは違っていたり、モアレがいい感じだったり、面白いところがいっぱいあるからね。で、どんなことをやったんですか?

名久井:まず、祖父江さんの「キズ印刷」と同様にフィルム製版にしました。次に、原画をスキャナーで取り込んで一回印刷したものを、さらにスキャナーで取り込んでまた印刷することによってモアレを引き起こし、ぼやっとした印象をつくり出しました。

祖父江:それがこの微妙なモアレですね。なるほど〜。紙は何を使ったんですか?

名久井:いろいろ試してアドニスラフに決めました。

祖父江:それはまた、刷るのが難しい紙を選びましたね。その結果、モアレに強弱ができて、それが不思議な立体感に繋がっているんですね。それにしても、モアレは実際にやってみないとどうなるかわからないから難しいよね。

名久井:そうなんです、わざとらしくしたくないし。「ちょっと汚いかな?」ってくらいがいい味になるんです。インキはこの『なつかし印刷』用にCMYKを調合してオリジナルを作りました。スミとシアンにはややイエローを入れて、マゼンタとイエローには同系色の蛍光インキを加えて鮮やかにしました。

祖父江:確かに昔のインキのイエローはものすごく鮮やかでしたからね。とくに活版時代のイエローはものすごくキレイだった。

名久井:昔は例の金属が入っていたんですよね。

祖父江:そう、カドミウムイエローのような色ですよね。でもこのごろは毒性の強いインキは、日本ではもう使えませからねー。あっ!線数も変えて実験してますね。

名久井:いろいろ試して最終的には85線にしました。

祖父江:ということは、大昔の新聞の線数くらいかな。ちなみに今の大手の新聞は175線です。1インチのなかに網点がいくつ並んでいるかが線数の目安なので、線数が細かくなればなるほど精細な表現ができるわけです。

名久井:でも細かいからっていいわけじゃないんですよねー。

祖父江:そう。硬い印刷になってしまうので肌のようなやわらかな表現には不向きだし、逆に車のような金属製品や貴金属には合う。いろいろ難しいことはあるけれど、それが印刷の面白さでもあります。

名久井:もう1つは、紙を切り抜いてつくった型で印刷するトライアルです。ブランケットに付いたインキを用紙に転写するオフセット印刷の特性を活かし、用紙の上に型紙をのせて印刷するというもので『オフセット・ステンシル』と名付けました。紙型を使って型抜きするステンシル技法を印刷機に応用しました。

祖父江:やられちゃった!悔しい〜と思いました。

名久井:もしかして、祖父江さんも思いついてました?

祖父江:いえ、これは思いつきませんでした。ただ、名久井さんの印刷物を見て、しまった!って。

名久井:とっても面白かったです。型紙の厚みでインキローラーと紙までの距離が変わって不思議な効果が出たんです。印圧でも微妙に変わるし、用紙でもインキの着肉が変化するし。でも、インキが着肉する部分が大きすぎると印刷機のローラーに型紙が貼りついて持って行かれちゃうので破けてしまう。その度にプリンティングディレクターの田中さんとセロハンテープで修繕していました。

祖父江:すごい!型紙の裏を見てみたらがセロハンテープだらけになっている!

名久井:そうなんです。テープがあればすぐ直せるし、その場でカッターで切れば絵柄も直せてしまうんですよ。

祖父江:切り絵を何枚か用意すれば刷版はいらないってこと?後はゴロゴロって刷ればいい、と。

名久井:いいえ。刷版自体はあらかじめ用意しないといけません。今回は100%のベタ版と47線の60%平網の版を用意しました。

祖父江:なるほど。

名久井:ただし、紙の厚みぶん距離があるからベタ版でもピタッと刷れずにホワホワっとしたテクスチャーになります。

祖父江:それがこの独特の表情になったんですね。

名久井:もうひとつ、エッジの部分にインキ溜りができて、いい味が出ました。

祖父江:インキ溜りから、刷った方向までわかりますね。なかなか良いと思うなあ。

名久井:さすがに下に記載したクレジットは切り抜けなかったので、手書きのものを普通に印刷しています。

祖父江:多色刷りだけど、どうやって各版を合わせたんですか?

名久井:テストでは勘で切りました。本番ではイラストレーターで絵柄を作成し、PC上で分けてつくり、カッティングプロッターで切りました。

祖父江:カッティングプロッターって?

名久井:イラストレーターのデータを入力すると、その通りに紙をカットしてくれる機械です。

祖父江:すごい!原始的な作業だとばかり思っていたら、そんなところに今の技術が使われていたんですね。

名久井:実はとってもハイテクなんです。

祖父江:てっきりカッターで切っているとばかり思っていました。

名久井:だって切るときに失敗したら、また全部切りなおすのは大変でしょう?それにテープで直すにも限界があるし。

祖父江:なんとハイテク使いだったとは。

名久井:機械は大事ですよ、私も機械は大好きです。テープで直し過ぎると厚みが出て刷りに影響が出てしまうから、版を何枚も用意して刷りました。

―こうしてあらためて作品をじっくりと眺めてみたことで、また新しいアイデアを思いついたというおふたり。さすが、筋金入りの印刷好きのおふたりです。

祖父江:名久井さんの『オフセット・ステンシル』、テープの厚みの高低差を利用する場合はそれでまた別の作品ができそうですね。

名久井:確かに、何かできそうですね。面白そう。

祖父江:ね、やってみたいと思わない?

名久井:でも、きっともう呼んでもらえないですよ。今回思い切りめちゃくちゃやっちゃったから。

祖父江:そうだよね、僕も名久井さんも、機械にも職人の鈴木さんにも大変な思いをさせちゃったからね。

名久井:あ、でも、来年の人が決まったらアイデアを教えちゃってやってもらうのはどうですか?

祖父江:100回刷りができたんだから、もっとすごいことだってできるかも、って?

名久井:やっぱり、だめかしら。うふふ。

祖父江:うふふ。

―普段から仲の良いおふたりらしいコミカルな掛け合いに、終始笑いの絶えなかったギャラリートーク。改めて作品の魅力を感じることができた、あっという間の1時間半でした。

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