TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.11 「GRAPHIC TRIAL 2011  オフセット印刷で探るグラフィック表現の可能性」

参加クリエーターの皆さんに、半年にわたるトライアルについて語っていただきました。

毎年、第一線で活躍されているクリエーターにご参加いただき、オフセット印刷でユニークな表現実験を行っているグラフィックトライアル。第6回目となる今年も、恒例のトークイベント「デザイントーク in TOPPAN vol.11」(6月11日、印刷博物館内グーテンベルクルーム)が催されました。
参加クリエーターの祖父江慎氏、佐藤可士和氏、名久井直子氏、山本剛久氏と、それぞれタッグを組み作品制作を担当したプリンティングディレクター(以下、PD)の金子雅一氏、仲山遵氏、田中一也氏、高浪雄一氏を加えた総勢8名で、半年に渡るトライアルを振り返って賑やかに語り合いました。


トークショーの始まりは作品コンセプトと実験プロセスについての解説です。
4名のクリエーターとPDに、それぞれのトライアルについてお話頂きました。

祖父江:昔はうまくいくことの方が難しかったのに、最近はうまくいかないことの方が難しいのです。なんとかミラクルなトラブルを起こしたいと頑張りましたが、製版フィルムは頑丈だし、金のインキはどうやっても錆びないんです。なので、どこのご家庭にもあるような食材をインキの色として使ったり、印刷機に必要以上の水を撒いて印刷したりと、トラブルが起こりそうなことをいろいろとやってみました。

PD金子:ちょっとやそっとではどうにもならない。逆にいえばそれだけ印刷技術が進んでいるわけです。もう、最後は印刷機とインキとの戦いでした。

祖父江:なによりびっくりしたことは、こんなにもトラブルって起こせないものなんだ! ってことですね。

佐藤:日本の印刷は世界でも最高レベル。でも印刷の工程でデザイナーが「こうしたい」と明確に伝えられない、曖昧なところがまだまだたくさんあるんです。何度刷り重ねたらどんな現象が起こるのか。文字はどこまで小さく再現できるか。メーカーの違いでインキの色の差はどれだけあるのか?その答えを自分の目で確かめてみたかった。

PD仲山:まさにマニアックにして究極の領域に踏み込んだ感がありました。半世紀近く印刷の現場にいる職人さんにも「こんなこと、やったことない」と言われ続けましたね。開いたことのない本のページをめくってみたら、知らなかったことがたくさん見つかったという感じで、いい経験になりました。

佐藤:僕自身、「へぇ〜」と思うことがいろいろありました。きっと観る人にも面白いと感じてもらえるのではないかと思います。

名久井:ひとつ目は、「なつかし印刷」と名付けたものです。昔の印刷物は微妙なモアレや版ズレが起こっていて、今見るととてもかわいく見えます。そのかわいさを表現したいと思い、今では珍しくなったフィルム製版をしたり、CMYK4色の色味に手を加えたりして、なつかしい質感を追求していきました。

PD田中:復刻ということではなく、今の方法でどうしたら再現できるかと考えました。このやり方で刷ったらレトロな感じになる、という方法を探りました。

名久井:もうひとつは、用紙の上に型紙をのせて刷るというもので、今回のトライアルが始まったばかりの頃工場見学していた時にひらめきました。「オフセット・ステンシル」と名付けたのですが、紙の厚みで見たことのないようなホワホワした印刷ができて楽しかった。実験中の自分の姿をグラフィックトライアルのブログで見たとき笑顔ばかりだったので、本当に私は楽しかったんだな、って改めて思いました。

PD田中:何が起こるかほとんど見当もつかなかったので、名久井さんにも立ち会っていただきながら仕上げました。

山本:木版画という印刷の原点と、オフセット印刷という先端技術の融合を目指しました。印刷を構成する五大要素、原稿・版・印刷機・インキ・紙は、木版画でもオフセット印刷でも共通することに気づき、お互いの共通する要素を置き換えて新しい表現にできないかと考えました。

PD高浪:苦労したのは版を木版画からオフセットの版に置き換えるところで、網点がない木版画の特徴をどうやったらオフセットで表現できるかなど、いくつかのポイントをトライアルの中で見つけていきました。

山本:出来上がったものは当初予想していたものとは全然違う表情だったのですが、それを見て本当に木版を刷ったようなリアルな感覚を受けたのが印象的でした。

PD高浪:山本さんのイメージをどう再現するか。一番のポイントとなったのは刷り順でした。今回はデジタル技術をほとんど使わずに、スミで刷った原稿をスキャナーでそのまま読み込んで、その刷り順やインキの掛け合わせで表現しています。


一通り解説を伺った後は、司会者からの問いかけに答えるかたちでトークが続きました。


――トライアルの成果を今後の仕事で生かせそうですか?

祖父江:活かしていいですか? でも、活かすのはむずかしそうです。ただ、これからもダメなものはつくっていきたいなと思います。

佐藤:僕の場合は見本をつくろうと思ってやったから、結構そのまま使えます。これがあれば印刷屋さんはもう何もごまかせない。

PD仲山:確かに…これがあったらもう印刷屋は逃げられません。

名久井:「なつかし印刷」はいつか何かに生かしたいと思っています。でも一番はPDの田中さんと出会えたことです。自分の考えてくれることをわかってくれるPDを得たことが今回何よりの収穫でした。

山本:今回は木版画でしたが、チャンスがあったらぜひシルクスクリーンやエッチングなど、他の版画技法も試してみたいですね。


――グラフィックトライアルという取り組みについてはどう思われましたか?

祖父江:通常だったら絶対にできないようなことができたので、すごくうれしかったです。酢醤油やカレー粉なんて、機械に悪影響を与えそうなものまで使わせてもらって。こういうムダなこともやらせてもらえる機会がこれからも続くといいな、と思います。

佐藤:確かに誰もが普段の仕事では絶対出来なかったことをやりましたね、それがすごく良かったです。100回刷りとか納期やコストから考えたら絶対にできませんからね。ムダと言えばムダですが、こういう実験の場は必要だと思いました。

名久井:機械と親密になれるチャンスをいただけました。普段の仕事とは違う筋肉を使うような感じで、印刷機と新しい付き合い方ができたと思います。

山本:印刷の全然違う側面を改めて感じることができました。印刷機との付き合い方がこれからは変わっていくような予感がします。



トークショーの後半は、祖父江氏の進行でクリエーター4名によるフリーセッションが行われました。日頃のお仕事に対する姿勢から、印刷の未来についてまで、興味深いお話が次々飛び出しました。

祖父江:結局みんな、アナログなことやっていたよね。

佐藤:皆さん、ローファイな味を求めていますよね。皆さんの作品を見ていて、デニムでわざと古着のように見せるウォッシュ加工を思い出しました。

山本:仕事では抑制される部分がありますから、汚れやトラブルに挑戦することで日常から解放されたいという思いが働いているのかもしれません。

名久井:商品をつくっているとブレがあるというのは絶対NGですよね。そういうこともあって普段やれないことをやりたくなっちゃったのかも。

祖父江:汚れに対する憧れというのが皆の中にあるのでは?最近はデジタルでも、小さい文字のツブれた感じを模倣したりするものも出てきていますよね。なんか不思議な時代になってきましたね。

佐藤:山本さんの作品は“木版画風”とか“エッチング風”とかデジタル処理のプログラムができていくような、今後の技術の元になりそうな気配を感じました。オフセットなどの技術もそうやって進化してきたし、デジカメだってここ10年で処理がいろいろできるようになっていますよね。

祖父江:ただ、“〜風”というのはちょっとしっくりこない。違うのにそれに近づけようとするのは“あざとさ”となるのでは?

佐藤:でも僕らより若い世代は、そこに抵抗がなくなって平気になっていくような気がします。本物か否かにこだわらず、テイストとして受け入れていくのではないかと思う。

祖父江:ということは、活版で刷れば活版印刷だけれど、活版らしさをより深く考えないと“活版風”には至れない、ということになっていくかもしれない。

佐藤:活版よりも活版らしい、ニセ活版のほうが本物らしくなることはあり得ますよね。加工デニムも本物の古着より明らかにいい感じに汚れや破れが入っているじゃないですか。

祖父江:考えてみると、昆虫などではしばしば“〜モドキ”のほうがカッコ良かったりしますね。たまたまそうなった本物よりも、本物に近づくための擬態のほうがエネルギッシュな感じがカッコいいものってありますね。

佐藤:音楽でもそういうことがありますよね。昔のロックというとものすごくカッコいいのに、実際に聴くとガッカリすることがある。“本物”よりも“本物のイメージ”のほうがいいのは、音楽に限らずいっぱいある気がします。印刷というのもそういう部分があるし、皆さんがやろうとしていたことも多分そういうことなのではないかという気がします。


祖父江:ところで、山本さんは木版を彫ったり、名久井さんは紙を切ったり貼ったり、僕は酢醤油をかけたり金ダワシでこすったりってしていたけれど、佐藤さんは“100回刷って”って指示して済ませましたよね。

佐藤:だって、自分で100回刷るわけにはいかないじゃないですか。

祖父江:そういう発想になるのは、規模が大きく、多くの人と連携していくという普段の仕事の影響があるからでしょうか。

佐藤:確かにそういうことも現れたのかもしれません。最近は仕事自体も大きくなっています。ひとつのモノをつくるというより、仕組みをつくる仕事が増えたので。

祖父江:それって、ちょっとさみしくないですか?そういえば、デジタルポスターが増えて印刷ポスターが減った時にも佐藤さんに「さみしくない?」って聞いたけど、その話も改めて聞きたい。

佐藤:デジタルにも紙にも異なる特性があり、面白さも違うからどちらも残っていくだろうと思います。それは今回の震災でもハッキリしたように、電気が止まるとデジタルだけでは機能がストップする、しかし紙だけでは対応しきれない。だからどちらも残る、というわけです。どちらか一方になるのではなく、二極化していくのではないでしょうか。物質として魅力があるものや商品のパッケージなどは、プロダクトとしてより魅力的になることが求められると思うし、貼る場所によっては印刷したポスターよりデジタルサイネージ(電子看板)のほうがきれいで効果的な場合も多い。今後は特性がもっとはっきりしてくると思います。

山本:紙の媒体と電子書籍のようなデジタルコンテンツ、印刷されたポスターとデジタルサイネージと、目的や場所や空間に応じて使われるようになると思います。オンデマンドの出力とオフセット印刷については、コストや技術などハード面で大きく変化が起こるまではロット数に応じた対応が続くのではないかと思います。

祖父江:“ルール外し”って、佐藤さんの“ルールづくり”とは、全然違うようでいて、実はとっても仲良しな関係にあるように思いました。佐藤さんも元々は“ルール外し”のような手法をいろいろやってきたのに、それが今はルールをつくる方になってきているし。

佐藤:そうですね、ルールを外していたと思っていたんですけれど、でも“ルール外し”というのは違うルールをつくろうとしていることだと今は思うんです。


終始、和やかな中にも熱い思いが行き交った祖父江氏と佐藤氏、独特の視線と感性からきらりと光る発言をいくつも残してくれた名久井氏、そして時にはクリエーターとして、時には凸版印刷の一員として真摯に応じた山本氏。四者四様のアプローチが、時間の経過を忘れるほど楽しませてくれたトークショーとなりました。

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