TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.10 装丁にみる本の魅力とこれから

『デザインのひきだし』(グラフィック社)編集長の津田淳子さんとアートディレクターの寄藤文平さん、大島依提亜さんに、装丁の魅力について語っていただきました。

2010年12月18日、凸版印刷の印刷博物館グーテンベルグルームにてデザイントーク in TOPPAN vol.10が開催されました。今回お迎えしたのは、装丁の実験的な試みを行う「装丁道場」を連載する『デザインのひきだし』編集長の津田淳子氏と、数々のブックデザインを手がけてきたアートディレクターの寄藤文平氏、大島依提亜氏。ブックデザインにひとかたならぬこだわりをもつ3名に、津田氏の進行で本を巡るお話を伺いました。

トークの皮切りは『デザインのひきだし』創刊号からの人気連載「装丁道場」。デザイナーたちが誰もが一度は目にしたことのある名作をテーマに装丁を提案する企画です。寄藤氏は第一回『吾輩は猫である』(作:夏目漱石)で、大島氏は2011年2月号に、『注文の多い料理店』(作:宮沢賢治)で登場しています。
まずは空押しをして猫がバリバリっと爪痕を残したようなイメージをつくった寄藤氏の装丁から話が始まりました。

「文字が“吾輩は”だけ、あとは猫が引っ掻いたような痕だけ、というデザインには正直いってビックリでした」(津田氏)
「アイデアは気に入っています。夏目漱石という名前と“吾輩は”の文字があれば誰でもわかるよね、という感じです。作品的には悪くないと思うけれど、今見てみると、売れる装丁ではないかも、と思う部分もあります」(寄藤氏)

大島氏の作品は、透明なアクリル板に金の箔押しでタイトルが記された表紙を開くと、ドアが描かれたペーパーバックのような小さな本が入っているという二重構造になっています。

「内容が、どんどんドアを開けていくお話でしょう? ドアの造形と本の構造が似ていると気づいて、壁のある仕掛けにしたいと思いました」(大島氏)
ヨーロッパの古い街並みのように、新しさと旧さが入り混じったものにしたかったとのこと。ここで寄藤氏から、文字は自分でデザインしたのかとの問いかけが。
「実は書体です。欧文書体がすごく好きで、デザイン作業のほとんどは書体のダウンロードサイトを見ていると言ってもいいくらい、いつも眺めているんです」(大島氏)
他にもいろいろ仕掛けがある凝ったつくりに、ディテールについての質問が飛び交ったあとで、津田氏から「大島さんは寄藤さんの作品のどこに魅かれますか」という質問が。

「引き算じゃないところですね。最初から着地点がある。引いていって研ぎ澄ましていくという発想じゃない」(大島氏)
確かに自分はどちらかというと足し算系かもしれないですね、と寄藤氏。実は自分もそういうつくり方をするという大島氏と、いちばん難しいのはどこで止めるかだという部分で意気投合。
「ロゴタイプもつくりこんでいくと、そのうち“やり過ぎ”に気づき、今度はカタチを整えていくとどんどん殺風景になる。それをどっちがいいかと考えながら、どこで止めるか」(寄藤氏)
「ロゴタイプは完成していけばしていくほど不思議とダサくなってくる。止めドコロというか、捨てる勇気が必要ですね」(大島氏)
それは何を基準に決断するのか、と津田氏が問いかけます。
「カタチの基準が僕の中にはあまりないですね。先に“この仕事はこうする”という考え方をつくってそれを基準にするという感じですね」(寄藤)

その後、話題は2人の仕事に。まずは大島氏の仕事を拝見。
「大島さんは僕にとって謎の人」と寄藤氏。2人の出会いは、映画『めがね』のパンフレットで、大島氏が寄藤氏にイラストレーションを依頼したのがきっかけでした。以前から映画『かもめ食堂』のパンフレットで大島氏に注目していた寄藤氏は、大島氏に会ってみたいとその依頼を快諾したそうです。『めがね』のパンフレット制作時の裏話でひとしきり盛り上がったところで、『かもめ食堂』のパンフレットに話題は移ります。
「このパンフレットは、映画の中に出てくるもたいまさこさんの旅行かばんがモチーフで、小説にしか出てこない役名が入っていたり、フィンランド航空の旧マークを使ったりいろいろ細かなところにこだわっています。はじめは小ロットの制作だったので、タグも手でつけていたのですが、後に映画が大ヒットしてしまって作業が大変でした」(大島氏)

話はデザインの細部、1つひとつのイラストにまで至ります。
「アイデアが良くても、ディテールがダメで魅力的に見えないこともある。大島さんの仕事は細部までおろそかにせずメチャメチャしっかりつくりこんでいる。表紙に描かれているステッカーの中にある山のイラストまできちんと描かれているのを見て、これはタダモノではないな、と思いました」(寄藤氏)

さらに用紙の話へ。使用したエースボールはクラフト系で、大島氏のお気に入りの紙です。
「紙は個人的に研究対象なんです。前は印刷でこういう質感になったから、次はこうしてみよう、とか。突き詰めていく期間があるんです。その期間は1種類の紙を使い続けてしまいますね」(大島氏)
「紙と言えば『自棄っぱちオプティミスト』(PARCO出版)の紙もかわいかったですね」と津田氏。すると大島氏が「あの紙は『デザインのひきだし』で発見しました」と告白。『デザインのひきだし』は印刷技術や紙にこだわるデザイナーたちには重要な情報源のようです。

次に取り上げたのは『続まこという名の不思議顔の猫』 。著者自身がデザインした一冊目のヒットを受け、続編を大島氏が担当しました。

「ヒット作の続編なのですごく悩みましたが、デザイナーが変わったことを感じさせないようにしようと決めて、帯とカバーの面積を同じ比率にしつつ用紙や写真などの要素を一冊目と逆転させてつくりました。本文もデザインをある程度踏襲しています」(大島氏)
随所に大島さんならではの工夫が光ります。猫の気分を文章ではなく色で表したページがあったり、時々ノンブルに数字の変わりに蟻のイラストが入っていたり。

「このノンブルの蟻の絵! 大島さん、さすがですよね 。触覚の先がちゃんと太く描かれている」(寄藤氏)
「大島さんの本って、何か気付くとすごく嬉しくなるようなことがどの本にもあるんです。さっきの蟻のノンブルもそうですが、『百万円と苦虫女』(幻冬社)でも、表紙にも使われている“お札”がヘソクリのようにページの間に挟まっている。本を買った方たちが楽しくなるような仕掛けがたくさんあるんです」(津田氏)
「純粋に“グラフィックデザインって楽しいものなんだな”と思えてきますね」(寄藤氏)

次は寄藤氏の仕事を拝見。
書店にいくとどんなジャンルの本棚でも寄藤さんの装丁に出会う、と大島氏が言うとおり、幅広いジャンルの本が次々と登場します。まずは『遊牧夫婦』(ミシマ社)。版画を彫って、それをベースにデザインを起こしています。表紙はハーフエアー、本文用紙には松材を使用したアドニスラフを使用しています。
「出版されてすぐに手に取ったら、松の独特のいい香りがしたんです。そういう香りが似合う内容だし、手に取ると軽いし、この装丁だし…ニクイッ!って思っちゃいました」(津田氏)
次は『書いて生きていくプロ文章論』(ポプラ社)。寄藤氏が1度はやってみたかったという、白地に文字だけのデザインです。

「こういうのがいちばん本らしいように思います。『吾輩は猫である』とは真逆のデザインです」(寄藤氏)
タイトル書体は既存の書体に寄藤氏が手を加えてつくったものです。
「ロゴタイプをつくるのは、演出ではなくてチューニングのような作業だと感じます」(寄藤氏)
「文字をいじっていると、ある瞬間、見たことのない書体に見えてくる時があるんです。不用意に自分でいじっていると、まったく違うものになってしまったりする」(大島氏)
そんな大島さんの言葉に寄藤さんも共感。
「自分がデザインしているというより、文字にデザインさせられているように感じる時がありますよね」(寄藤氏)
「はい。文字に自分が動かされている、操られているような感じです」(大島氏)
既存の書体を扱うときだけの、独特な感じ方があるようです。

次は『swiss』(赤々舎)です。写真と文の旅行記で、チケットが入っていたりする仕様は、ちょっと大島氏の『まこという名の不思議顔の猫』などに共通する部分がありそうです。

「完成してみたら僕が想像していたよりも良かったんです。“こんなにいい本だったのか”」と思えるなんて、あまりない経験でした」(寄藤氏)
デザインをする前は、テキストと写真とバラバラだった原稿が、1冊の本としてまとまって初めて見えてくるものがあったとか。
「本になって改めて“長島さんはこういうことをしたかったんだ”とわかった気がしました」(寄藤氏)
ここで「本文の仮名がすごく変わっていますね」と津田氏が一言。寄藤氏が、この書体は自分の“勝ちパターン書体”だと教えてくださいました。手づくりのような温かみのある感じにしたい時に使っているそうです。また、表紙のクロスは製本屋に残っていたクロスの余り布を使用しているため、バリエーションが32種類もあるとのこと。

「やっぱりデザインがすごく強いので、クロスが違っても同じ本だと認識させる力がありますね。」(大島氏)

文からイラスト、デザイン、編集まですべて寄藤氏の手による『元素生活』(化学同人)も紹介されました。元素の話をイラストと文で綴ったものです。
「デザイナーというとほとんどの方はアートへの志向性があるものですが、たぶん好みのせいか、それとも意識的なのか、寄藤さんはそれとは違うフィールドでやっているように感じます」(大島氏)
「大島さんの表現を借りると、“研究対象”なんです。文章も編集も、デザインで全部やる場合どうしたらいいの、というのが研究対象なんですね」(寄藤氏)

最後に、お互いの印象を聞いてみました。
「僕が広告の仕事もしているせいかもしれませんが、大島さんは儲けるゾーンとは違うところに世界がある感じがするんです。僕もできればそこにいたいけれど、そのためには意図的に脱出を図らなければならない。大島さんのようなグラフィックデザイナーがもっとたくさんいれば、もう少しグラフィックデザインも信用できるのに、と思います」(寄藤氏)
「他のデザイナーさんたちは、今まで話したような細かいテクニックなどを武器として隠し持っているんです。それを寄藤さんは全部公開したらいいと言う。“エエッ”って思いました。すごいな、って。似ているものが出てきてもきっと寄藤さんはへっちゃらなんです。なぜかと言えば、公開して似たようなものが出てきても、寄藤さんはその時はもう既に先に進んでいるから」(大島氏)

「どうしたらグラフィックデザインがもっと元気になるかと考えたとき、インターネットのオープンソースという考え方をもうちょっと広げてもいいんじゃないかな、と思うようになったんです。自分が培ったノウハウを、たくさんの人が使える状態になっていたほうがいいように思います」(寄藤氏)

書体や用紙、グラフィックデザインや電子書籍など、本とその装丁の魅力に浸ることのできた2時間でした。

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