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2010年参加の福岡氏と2009年参加の植原氏による、グラフィックトライアルを基点にしたデザイントーク。(於:P&Pギャラリー、2010年7月9日)

グラフィックトライアルは2006年に第1回を開催し、今年で5回目になりました。今年は新たな企画として、今年度のクリエイターと過去に参加したクリエイターによるトークセッション「ギャラリートーク」が行われました。第3回は福岡南央子氏×植原亮輔氏。植原氏は2009年のグラフィックトライアルで、パターンで構築された絵柄をインキとニスの微妙な質感で表現する作品を発表、色とパターンがつくりだす不思議な視覚効果を生み出しました。おふたりはともにデザイン会社であるドラフトに所属。「ウエさん」「フック」と呼びあう先輩・後輩の間柄で仕事でも度々チームを組んできました。本日は、2人の思い出話から始まりました。

●それぞれの地図の描き方――仕事の方法論

――初めておふたりが組んで仕事をしたのは?

福岡:2003〜2004年頃、<caslon(キャスロン)>の仕事です。ウエさんがアートディレクターで、私はデザイナーとして一緒にポスターをつくりました。

植原:その頃の<caslon>はわりと自由にグラフィックをつくらせてくれていて、楽しんでやっていました。予算がなかったから自分たちで写真を撮って、いちばん良く撮れた写真を使っていました。他にも特殊撮影みたいなことを手づくりでやったり、予算がないから逆に自由に考えることができましたね。

福岡:色数もあまり使えなかったから逆にどうしたら効果的にできるか考えていましたね。

植原:<caslon>では表現の追求というところで僕もいろいろ要求したし、それに対してフックがアイデアを出して、常にキャッチボールをしていた感じでしたね。

福岡:とにかくウエさんのイメージが描きあがる前に、何か自分で突っ込まないとダメだと思ってやっていたのをすごく覚えています。ウエさんのイメージが20%くらいの時に何かしら出さないと、どんどん飲みこまれていってしまうと思い、先手必勝という感じでやっていましたね。表現のアイデアを先につくっておいて絡ませてもらうという感じでした。

植原:この仕事が一旦終わって、1年くらい経ってからまた一緒の仕事があって。

福岡:それが当時の松下電工(現パナソニック電工)のシステムバス<i-u(イーユ)>のカタログです。

植原:この時に、実はフックのこと、「あれ?ちょっと変わったな」って思ったんですよ。<caslon>は表現の追求だったから、わりとフワ〜っとした話をしていたんですが、<i-u>では、フックがプロジェクトの方向性などをわかりやすい言葉や図にまとめていて。まるで地図を描くみたいにね。それで、「あれ?変化してるぞ」って。

福岡:そうだったんですか?

植原:たぶん、成長したってことなんだろうね。僕にはできないことをやっていたから、「ああ、これはすごいな」と思って。当時、僕は考え方を言葉にするのはあまり得意じゃないほうだし、ボンヤリとつくっていくほうだったから、フックの成長をすごいと思ったんです。

福岡:あの時は、地図が頭の中に浮かんできた、という感じでした。チームの皆さんが持っておられるコンセプトがとてもいいと思ったので、興奮していたし。だから話すこともできたんだと思います。

植原:どちらかというと、僕はぼんやり考えながら、自分独自の地図をちょっとずつ描きながら辿り着きたいほうなんだけれど、フックは、最初の段階で地図をまず描いていくんだろうね。

福岡:私の場合は、資料や情報、人の発言や顔つきとか、たくさん刺激をもらった後で、1人で地図を描くという感じで仕事をするのが好きなんです。ウエさんは違いますよね。そういうプロセスがなくても自分で見つけて、その地点から掘っていく。

植原:でも、最近は自分が中心にいて多くの人が関わるという仕事が多くなったからか、人と密に話しながら、そのコミュニケーションの多さによってものづくりをするようになったんですよ。

福岡:私も同じです。やりやすくしたいから、先に皆の意見を聞くことにしているんです。早くまとめられれば、その後の作業の時間をゆっくりとれるから。

●「普通の印刷」の魅力を探る――福岡南央子のトライアル

――次に、グラフィックトライアルの作品について伺いたいと思います。今回、福岡さんはコンセプトについてどう考えていらっしゃいましたか?

福岡:実はこれまで言葉が見つからなくて「普通の印刷」と言っていたのですが、「何に対して普通なんだろう」「普通の印刷ってなんだろう」とずっと考えていたんです。最近になってようやく「こういうことだったのかな」と気付いてきたような気がします。それは、自分がいちばん好きだと思っている部分をやりたかったんだ、ということです。元々私は特殊印刷も、ごく普通の4色でのオフセット印刷もすごく好きでした。それがちょうどトライアルのお話をいただいた昨年頃から、なぜか特殊印刷に対する興味がすごく薄れてきていました。それはたぶん、仕事でいろいろやるうちにだいたいわかってきたから興味が失せてきていたんだろうと思います。対して普通の印刷についてはどうだろうと考えてみると、隅から隅までその世界を知っているかと言えば知らない部分がある。普通の紙に普通のインキで刷っても、その表面でいつも何かが起きている。実はそういうことがいちばん好きだったんだな、と思ったんです。それで、変わった効果を探すというより、魅力のある効果を掴むことのほうがやりたいと思って。例えば紙にインキがのった時に表面の凸凹によって銀の光り方はどう変わるのか、といったことを1つずつ確かめたい。大発見があったようには見えない実験ですが、それぞれの効果に魅力があるかどうか、きちんと確認したかった。

――半年間、プリンティングディレクターと仕事をしていただきましたが、どうでした?

福岡:印刷って全部1人でやらなくて済む感じが好きなんです。データをつくって入稿して、そこから先は印刷のプロの方たちが仕上げていきますよね。その、人に委ねるという感じが好きなんです。昔から、全て自分でやるというのがすごく気持ち悪いと思っていて、学生時代もインクジェットプリンターを使って出力まで全部自分でやるのがすごくキライでした。

植原:全部自分だと、選択肢が多すぎて迷うんだよね。

福岡:というか、全部に自分が詰まっているという感じが嫌だった。それで早く印刷をやりたいなと思っていました。印刷できるようになった今は、出校した印刷物を手に考えるのが楽しみですね。写真などの素材にも撮る人のイメージが入ってくるのと同じように、印刷も製版や刷りで人のイメージが入ってきます。それをなんとなく予測しつつ、実際に刷り上がってきたものを見ながら考えるのが好きです。

植原:クールダウンできるしね。一旦印刷屋さんに渡してしまうと自分の頭がゼロになれるから、そこで改めて見ることができる。

福岡:そうして1つの作品にまとまってくるという感じですね。

●紙とインキで質感をつくる――植原亮輔のトライアル

――では去年参加した植原さん、作品説明をお願いします。

植原:紙とインキで質感の違いを出したいと思ったんです。<D-BROS(ディーブロス)>の仕事では型抜きや箔押しのように複雑なテクニックを使わせてもらうことも多いのですが、それは<D-BROS>が自社の商品だから成立する話なんですね。クライアントさんがいる仕事では、普通はそこまで複雑にやることはない。どうなるかと言えば、型抜きはダメです、箔もダメ、UVも無理、…といろいろ言われて「じゃあ、もうオフセットしかないんだ」と縛られる。その中で考えていくわけです。グラフィックトライアルも、オフセットという縛りの中で自分らしくやりたい、「それって何かなあ」と考えるなかで思いついたのが、ものすごく薄い紙を使うことでした。使用しているのはコーモラントSというペラペラの包装紙です。薄い紙は、厚い紙よりかえって質感があるんですね。触るとペラッと音がしたり、向こう側が透けて見えたりする。両面に印刷すれば裏抜けするし、あんまり薄いから折り曲げちゃいけないという気持ちにさせられる。そんなところがすごく紙らしく思えます。そんな物質感のある紙の上に、インキとニスで何かつくろうと考えました。透明ニスもうまく使うと奥行きを出せるんですよ。絵柄は前から興味があったパターンを使って、そこにニスやインキや紙で物質感を与えることで、もうちょっと違ったものになるんじゃないかという流れでつくりました。

――白地の部分にもいろいろな質感があるし、目線を変えるとさらに変化して見えますが、この辺は最初から狙っていたことですか?

植原:狙っていました。でも思った以上に出たかな。ニスも通常の印刷より盛れているし、紙のテクスチャーがない感じもすごくいいんですよね。インキがあまり染み込まない紙なので、ビックリするくらいインキがのるし。

――人物にした理由は?

植原:理由は特にないです。人物が好きだから、かな。みんな、人物好きですよね?

福岡:だから私も顔にしたんです。

植原:ああ、そっか!

福岡:見てくれるから。誰でも気になって見ちゃうでしょ、人物と同じですよね、きっと。

植原:それに人物って、1回は表現しないといけないものという感じがするんです。素材の写真はアンティークショップで見つけました。フランスの写真館から発掘されたという5000枚くらいの小さな写真の中から抜き出したものです。あらかじめつくっておいたパターンに当てはめながら、明度の違うパターンを1つずつつまみだしていく作業をしてつくりました。

――植原さんはこの作品をいろんなものに展開されていますね。

植原:そうなんです、この手法が気に入ってしまって、スイマセンと謝りたいくらい色々なところで使わせてもらっています。本当はトライアルでももっとやりたかったんですよ。カラフルにするとか、全部ニスにするとか、いろいろとね。その欲望が抑えきれずに、その後ADC年鑑、<D-BROS>のホテルバタフライの便箋と封筒、ディズニーの商品企画用の作品にも使っています。自分の作品づくりの1つのスタイルにしたいなと思っているし、今後もやりますよ。この方法でまだまだやりたいことがいっぱいあるので。

福岡:私の場合は、ウエさんのような転用できる方法論とはちょっと違うので、これを使ってという具体的なアイデアはないのですが、何かしようと思った時にちゃんと思い出せるようにしておきたいと思っています。そのためにテストもいっぱいしたし整理もしたので、ぜひ応用したいと思います。つい最近もトライアルでの発見をチラシに活用しました。スミの掛け合わせの微妙な差を使ったものです。

●印刷の魅力、紙の魅力――これからの広告としての印刷物

――トライアルを終えて、感想は?

福岡:トライアルを通じて、これまで自分は「制約」に甘えていたんだと感じました。これまでは制約があったほうが「これがダメなら、こうすればいい」「安い紙だけど、こうやって生かそう」と頭が働くし、そう考えるほうがラクだし楽しかったんです。でもトライアルのおかげで、自分はそこに甘えていたんだな、と考えるきっかけを得ました。「自由になったら私は何をやりたいんだろう」「真っ白い大きな紙に何をのせるのか」と、生まれて初めて考えたように思います。

植原:僕はオフセット印刷という制約のおかげで紙や印刷の仕組みを考えてつくることができました。でも、逆に安い紙でデザインすることが得意になっちゃったな、と思って。高価な紙を使わずに、どうやってつくるかが面白くなってしまった。でも安い紙しか使わないと、紙屋さんのことがちょっと心配。

福岡:高級な仕事をやっている人もいるし、流行もあるから、きっと大丈夫ですよ。

植原:大丈夫かなあ。

福岡:厚い紙にも魅力があるものはいっぱいありますよ。

植原:まあねえ。それより、紙メディア自体がなくなっていくことのほうがもっと心配かな。でも、僕はこれからは逆にDMのように直接手元に届く広告がいいんじゃないかな、と思う。今はお客様リストのような情報が昔よりも簡単に入手できる仕組みが各企業できているから、お客様にポーンと直接届いて、お客様の気持ちをつかめるようなDMが効果を発揮するようになる気がします。届いたDMのデザインが良くてストーリー性も盛り込めれば、ブランドのイメージはもっと伝わるようになるし。そう、だから紙モノはやっぱり大丈夫だよ、堅いよね。

福岡:だからこそ丁寧にやらないと淘汰されちゃいますね。でも、正直なところ、私はデジタルも好きなんです。

植原:僕もそうだよ。

福岡:どっちも好きなんです。新しく起きるというのは面白いことでしょ、だからデジタルにも興味がある。以前、インターネットの創生期に、何かものすごいことが起きるんじゃないかとワクワクしたじゃないですか、そういうことがまた起きているような感じがするんです。

植原:楽しいよね。可能性があるし。

福岡:紙にはデジタルのように「こういうことができます」とはっきり言えないところがあるんですが、利用価値に収まらない魅力があるんです。理屈じゃない魅力が。説得力が弱いようだけど、だからこそ魅力があるし絶対残るような気がします。

――紙と印刷が大好きなおふたりのこれからに期待しています。

常に自らの視点で仕事と向き合い、デザインに取り組んできた植原氏と福岡氏。印刷物をこよなく愛する2人の気持ちがしっかりと伝わってくるようなトークイベントとなりました。

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