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2010年参加の菊地氏と2007年参加の服部氏による、グラフィックトライアルを起点にしたギャラリートーク。(於:P&Pギャラリー、2010年6月17日)

今回で5回目を迎えたグラフィックトライアル。今年は今年度の参加クリエーターと過去のグラフィックトライアルに登場したクリエーターによるトークセッション「ギャラリートーク」を企画しました。その第1回が菊地敦己氏×服部一成氏です。服部氏は2007年のグラフィックトライアルで、網点を線に置き換えたグラフィカルな作品を発表、その後も同じ流れを汲む作品をいくつも発表し続けています。
トークは両氏のグラフィックトライアルで発表した作品を中心に展開。最初はそれぞれのコンセプトと解説からスタートしました。

●物質感とライブ感 ―― 菊地氏のトライアル

服部:まずは、菊地君の作品の解説をしてもらいたいと思います。

菊地:今回、僕がやったのはPS版という印刷機にかけるアルミ版に直接手描きで描く「ハンド・トゥ・プレート(Hand to Plate)」というものです。現在のオフセットの製版の主流はCTP(Computer to Plate)というコンピュータから直接PS版に出力するという方法ですが、このコンピュータの作業を取り払って、版に手で直接描いたものを印刷機に入れました。

服部:具体的にはどうやって?

菊地:PS版に塗布されている感光層をヤスリで削ったり、専用の消去液をつけた布で拭きとって消していったり、逆に加筆用のペンで描いたりして1版1版つくっていきました。刷り重ねた時にどんな絵ができるかよくわからないので、刷ってみて「こんな感じなら次はこうしよう」ってつくっていく、文字以外はすべて一発描きです。ただ、ベタ面は塗り込むのが面倒なのでCTPでだいたいの形だけ出力しておいて、手描きで直していきました。

服部:紙などに描いたものを原稿として入稿するのと、PS版に直接描くのとでは何が違うんですか?

菊地:やっぱり物質感が違います。ヤスリを使ったものなどは物質的に削られたものから転写されているので、コンピュータで書かれた線とは違って、ディティールに不均一な痕跡が残ります。他にもベタッと刷ったところにも少し調子があったり、塗布した溶剤の凹凸がそのまま出たりします。

服部:銀のようなメタリックな色を使ったのはどうして?

菊地:メタリック色は金属粉をメジウムで溶いたものだから、普通のインキとは組成が違うので、上に通常のインキを刷るとインキをはじく現象が起こります。「トラッピング不良」という本来ならエラーとされる現象です。でも、これによって白と銀でラインを描いた上に黒を刷ると、黒をはじいた銀の部分の方が、黒がしっかりのった白い部分より白く見えるという明暗の逆転現象が起こります。

服部:今回に限らないけれど、菊地君は物質感とか、紙の質感やインキの組成からデザインを発想しているのが結構あるよね。

菊地:今の印刷技術は写真をいかにキレイに「再現」するかを優先した方法論なんですが、それが僕はちょっと気に入らない。もっと多様な表現ができるのに、同じような「質」に落ち着いてしまうことが面白くないと思っているんです。それで写真データや均一な線を再現するのではない、印刷物それ自体の存在感を出したいと考えているんです。ものすごく薄いオフセットのインキの膜でも、そこに物質がある限り何かしらテクスチャーがあるわけだから、それでどういう表現をつくるかを考えますね。

服部:グラフィックトライアルのHPに作業中のスナップがあったけど、なんか楽しそうでいいな〜、って思ったんです。物をつくる楽しさみたいなものが感じられて。

菊地:とにかくライブ感が楽しかったですね。頭で考えたり、コンピュータ上でシミュレーションを重ねたりしていると、どうしても自分の癖や作業手順の中で終始してしまう。それが面白くなくて。どこに行くのかわからないようなものをつくってみたいなと思ったんです。

服部:技法の面白さと、作品にするときの画題との関係が難しかったんじゃない?

菊地:そんなに苦労しませんでした。絵柄から表現をつくったというより、この表現を使うならどういう絵が面白いかな、と考えたし。色だけは合わせたから、なんとなく連作には見えるかなというのはあったけれど、あまり絵柄では悩まなかったですね。だいたいパッパッとやって、チャッチャッとできないと勢いが死んでしまう。

服部:菊地君ならではの作品だよね。なんか菊地君は何やってもオシャレになるよね。それがすごいなと思う。

●網点とフォルム ―― 服部氏のトライアル

菊地:では服部さん、トライアル作品を説明して下さい。

服部:オフセット印刷のいちばん一般的な原理は網点だと思い、それを表現に結び付けようと思ったんです。普通、網点は写真や絵などを表現するために裏で働いているわけですが、その原理をグラフィックの表現のほうに持っていこうとしたわけ。
実は最初にテストした時点では、手描きで網点をつくろうと考え、点を描くのは大変なので網を線に置き換えて網点と同じ比率の太さで描けば掛け合わせを表現できるだろうとやってみました。ところが、なんか味がある絵みたいな感じになっちゃって…。

菊地:(実物を見せられ)う〜ん、ギリギリな感じですね。

服部:なんかイケてないな〜、って。手描きという要素があることによって、かえってCMYKを置き換えているという面白さが引っ込んでしまっていたと気付いて、コンピュータの線にすることにしました。もともと線の太さを確かめるためにコンピュータでつくった下書きがあったので、あとは線の太さやピッチのバリエーションをつくって、色の掛け合わせをいくつか選んでつくりました。

菊地:絵柄は手書きの時から旗だったんですね。なぜ旗なんですか?

服部:色わけできるから。

菊地:えっ??

服部:色がテーマだから、色わけできるものがいいでしょ。それに二次元の表現だから二次元のモノがいいし、旗ならちょっと動きを出すこともできるので微妙に三次元になるのも面白さになるかな、と考えたんです。実際にゆらゆらと動きをつけた部分は線の太さの変わり目がガクガクしたり、トゲトゲしたりして面白い効果になったし。そのあとの個展ではケーキを、仲條正義さんとの二人展「仲條服部八丁目心中」では「七曜」ということで太陽とか月のようなものをつくりました。

菊地:でも旗がいちばんシンプルで見えやすいですよね。旗は図形なんですよね。網点を直線で表現したものに対して揺れた形が入っていることで表現の見え方がすごく明快になっている。対してケーキには形に意味があって、背景との対比が単純になっていますよね。背景とケーキの色の濃度対比や、線の荒い・細かいで距離が出ていて、空間表現というものが加えられている。すごく詰まった感じのものやリアルな空間に見えてるものとか、平面の中の空気の抜け方が全然違う感じがする。それがすごく面白いなと思いました。いちばんモダンデザインとして定着されている作品だし。

服部:なるほどね〜。それで?

菊地:7枚シリーズで1週間を表現した「仲條服部八丁目心中」では、形と色と文字といろいろ画面要素が増えてきて、それぞれに意味がある。でも、フォルムの面白さが加わった結果、直線網点による表現としての強さという意味ではちょっと弱まったように思います。

服部:……。その通りなんだけどね。でも旗ばっかりつくっているわけにもいかないんだよ。確かに、八丁目心中は形が主張しているんだよね。もちろん旗だって自分で描いたものだけれど、要は旗の形で僕の造形じゃない。でもケーキはデザイナーがつくりだしたフォルムみたいなものがちょっと出て、微妙に意図的な形になっている。見る人はデザイナーがつくりだした形を見たいわけでもないんだな、と思うんです。デザイナーが頑張ってひねり出した形が強いと、見る方はかえって引いてしまうことも多いように思うんです。素直にポーンと出てきたように見えるものの方が逆にしっくり楽しめる。

菊地:そう言えば最近はこの続きはやられていないですよね。

服部:まあねえ。もうそろそろストライプはやめないと。自分でひねり出したフォルムではないところで、もっと鮮やかにやりたいという願望だけはあるんだよ。

●オシャレ感と着崩し感 ―― それぞれのデザイン感覚

菊地:この間、服部さんの事務所に伺ったときに思ったんです。すごいな〜、って。服部さんは同じ情報量のものでも、過剰に見せたり足りなく見せたりしているんです。僕だと最初から情報量自体を操作して、足りなく見せたいときは情報量を実際に減らすし、過剰に見せたいときは余計な情報もいっぱい入れてしまうのに、服部さんは常に過不足ない情報量を入れながらそうじゃなく見せている。普通に組むと普通のデザインになってしまうところを、写真や絵や文字の入れ方で組み立てるバランスの崩し方が服部さんは絶妙だと思う。

服部:菊地君は何でもかんでも深読みしすぎるようなところがあるから、そういう風に見えるのかな。たぶん僕にはバランスいい感じを避けたい、見る人が期待している通りの感じにつくらないぞ、みたいなことがあるんですよ。「オシャレはダメ!」って感じもちょっとある。

菊地:「オシャレはダメ!」ですか?

服部:菊地君のはピタッとピントが合っている感じがするよね。時代の感じとかに、こんなにピントを合わせちゃっていいのかなというくらいに。

菊地:そうですか?

服部:それがオシャレ感覚なんですよ。でも、もしかすると5年くらいすると飽きられてしまう可能性があるような感じも…。いや、菊地君が飽きられちゃうというわけではないですよ。オシャレ感にはちょっとそういうところもあるかな、という話。
僕は見ている人の期待通りにピタッといっているデザインじゃなくて、画面に対してちょっといらいらするような感じを一生懸命探っている、という意識があるんです。行き過ぎてはだめだけれど、フォルムもレイアウトも色彩も、ピントが合ってるようで外れているような変なところを行きたいというのがある。

菊地:オシャレを目指してはいないんですけどね(笑)。それなりに外れたところで止めてるんですけど、いつの間にやらオシャレになってしまう。

服部:だからオシャレは危ないんだよ、菊地君。

菊地:服部さんでしょ、オシャレの代表は。僕なんか、どちらかと言えばいいかげんで質が低い感じと言われますよ。

服部:それがオシャレ感なんですよ。オシャレ感にはいい加減さが必ずあるからね。まじめにつくるとオシャレにならない。

菊地:なるほど。それはそうですね。

服部:わかった! 菊地君のつくるものは、いいかげんさを自在に操る感じがし過ぎる時があるんだ。

菊地:そうかもしれない。

服部:僕も自戒しているんですよ。自分の作為が出過ぎると見る人はつまらないですから。そうだね、たぶんオシャレというより、キマッている着崩し感みたいなものだね。キマッているとカッコ良く見えるけれど、それでは見る人もだんだん飽きてきて崩れたものの方が新鮮に見えたりする、ってあるじゃないですか。でも崩していることがわざとらしくなると見る方もシラけちゃうから、そこをいかにわざとらしく見せずにうまいこと崩して、もっと違う定着の方法にするかですよ。追っかけっこみたいなところがあるんだよね。

菊地:はい、気をつけます。オシャレに。壁に「禁オシャレ感覚」って貼っておこうかな……。

服部:今回の菊地君の作品がいいのは、そこが制御しきれていないところだと思いますね。

菊地:実は以前にやった展覧会でも予定調和になってしまったところがあって、どうにかして予定調和から脱したいと思い、今回は設計しきれないものにしようと思ってこういうやり方にしたんです。

服部:でも、1個だけ幾何学的なものがあるのは、なぜ? バランスをとろうとする気持ちが働いたのかな?

菊地:色の濃度差の表現だったので、枡の位置と角度で錯視効果みたいなものを入れてみたいという、シャレみたいなものですよ。

服部:じゃなくてオシャレ感覚でしょ? こういうのが1枚あるとバランスいいぞ、って無意識のオシャレ感覚が働いているんだよ。

菊地:イジわるですね。

服部:それが菊地君の面白いところだよね。でも、そうじゃない菊地君の解決法があったら見てみたいな。僕としては、「相変わらずオシャレだな」というのではない菊地君を。

菊地:オシャレを封印して、ですか?

服部:そうそう。オシャレ感覚を封印しつつ、もっとフィットするものが菊地君の中にあるのではないかと思っているんです。

菊地:そう言ってもらえるのはありがたいです。探してみます。

日頃から親交のある2人の気の置けないやりとりは、笑いを誘う軽妙な語り口と鋭い舌鋒が相乱れ、あっという間の1時間半となりました。

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