TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.9 「GRAPHIC TRIAL 2010  4人のアートディレクターがグラフィック表現の可能性を探る」

グラフィックトライアル2010を振り返りながら、制作コンセプトとプロセスを中心に語っていただきました。

気鋭のクリエーターたちが実験を重ねながらオフセット印刷で作品をつくりあげてきたグラフィックトライアル。5回目となる今回も、恒例のトークイベント「デザイントーク in TOPPAN vol.9」(5月22日、印刷博物館内グーテンベルクルーム)が開催されました。トライアルに参加した新村則人氏、菊地敦己氏、福岡南央子氏、仲野昌晴氏のアートディレクター(以下、AD)4名をゲストに迎え、さらに各作品制作を担当したプリンティングディレクター(以下、PD)4名(尾河由樹氏、森岩麻衣子氏、渡辺孝氏、田中一也氏)が参加。総勢8名が、半年にわたるトライアルを巡り、にぎやかなトークを繰り広げました。

▲ 左から新村則人氏、PD尾河由樹氏

トークの前半は、ADと担当PDによる作品のコンセプトと実験プロセスについての解説です。皮切りは「ウロコの美しさに挑戦」をテーマに、5枚のポスターを1匹の鯉のぼりの絵にしつらえた新村氏です。水産業を営む実家の仕事も数多く手がける氏にとって、“ウロコ”というテーマはすぐに決まった、と言います。
「いつかは印刷で表現してみたいとずっと思っていましたから。でも、バーコ印刷や箔押しを使わずにどうやってウロコの質感を出せばいいのかわからなくて。そこでまずはウロコの1片の実験から始めました」(新村氏)
担当PDの尾河氏にとってももちろんウロコの表現の追求というのは初めての体験でした。
「用紙やインキ、グロスニスやマットニス、パールメジウムなどで変化をつけて再現してみようと決め、銀インキはドイツ製のものを用意するなど、まずは材料集めに奔走しました」(PD尾河氏)
トライアルではパールメジウムの重ね刷りという手法から実験を重ねました。
「僕のイメージとしてはすごく光ったウロコになるはずだったのに、重ねれば重ねるほど濁ってくるパールにビックリ! でもそれがかえってウロコらしくてよかった」(新村氏)
新村氏によると、困ったときには決まって尾河さんから助け船が出たとのこと。
「悩んでいると”金・銀を使いましょう”とか“ヒレに銀の細い線を入れてみませんか”とヒントをくれる。それがとっても効きました」(新村氏)
こうして完成した鯉のぼりは、さまざまな微妙な色調が際立つウロコが見どころです。
「背は金、腹は銀をプラスしています。そうすることで生まれるほんのちょっとの立体感が僕のこだわりです」(新村氏)
「グラデーションの変化や陰影で、平面の中に微妙な距離感を作り出せたと思います」(PD尾河氏)

▲左から菊地敦己氏、PD森岩麻衣子氏

2番手は菊地氏で、テーマは「インキの追求と『ハンド・トゥ・プレート』」です。印刷工場内でPS版に直接手で描いてつくった版を、そのまま印刷機にかけるという方法で5点の作品分の版を作成しました。
「今、印刷は恐らく8割近くCTP(Computer to Plate)になっています。スピードも速いし、網点も正確で写真再現は格段に進歩した一方で、人の目や手が介在する余地がなくなってしまいました。それ自体は決して悪いことではないけれど、表現の幅が狭まったことは確かです」(菊地氏)
「一昔前なら、透明のポジフィルムを介してデータを版にしていたのですが、今は直接データから版に焼きつけています。そこが大きく変わった点です」(PD 森岩氏)
そこで発想したのがPS版に直接手描きする「ハンド・トゥ・プレート」(菊地氏命名)でした。
「版数や色彩設計はある程度決めておいたけれど、基本的には現場での即興で版をつくりました。ですからこの作品は言わば“手描きの集積”ですね」(菊地氏)
印刷システムそのものにアプローチしたトライアルのため、説明もどんどん印刷技術へと踏み込んだものに。菊地氏が「技術的な話ばかりだけど、僕の言ってること、わかりますか?」と会場に向けて問いかける一幕も。「オフセットについてわかってないと、僕の説明って面白くないかもしれないよ」という菊地氏に、会場は笑いに包まれました。
そしてPD森岩氏から菊地氏についてのコメントが。
「菊地さんは常に探究心を失わない人です。なんでこうなるの? どの機械で刷るの? 誰が刷るの? と次々に探究してきます。だから今回のトライアルでもやりたいことがワーッと溢れ出たのだと思います。本当に、私も勉強になりました」(PD森岩氏)

▲左から福岡南央子氏、PD渡辺孝氏

3番手は「普通の印刷でできる面白いこと」というテーマに取り組んだ福岡氏です。ごく日常的な印刷方法と紙とインキを使いながら、面白い視覚効果をめざしました。
「特殊な印刷では、それによってどんな効果が得られるかもハッキリとわかります。対して、オフセットでのプロセス4色掛け合わせはいつもの印刷方法で、私には空気のようなもの。今までなんとなく見過ごしてきたことや、心のどこかに引っかかっていたちょっとした事のアレコレを、トライアルを通してしっかり把握してみたいと思いました」(福岡氏)
そのためにインキはCMYKが基本、紙もできるだけ普通のものをと自ら足かせをはめることに決めたと言います。その結果、担当PDの渡辺氏は特殊なことができない、という難しさに直面しました。
「“普通の印刷”というテーマなので、印刷についてのアドバイスが役目の僕は何を提供できるのだろう、と悩んでしまいました。でもおかげで、刷り順や紙の種類などで“普通”を逸脱しないでどこまで面白いことが可能か挑戦できたのが面白かったです」(PD渡辺氏)
「自分の仕事に生かせるようなことをしたかったんです。このトライアルは自分のためにやろうと思っていました」(福岡氏)
最初のトライアルではオリジナルの色玉を使って効果を確認しました。普段からよく使う銀や黒には特にこだわって検証したと言います。
「印刷物にはインキがつくりだす奥行きがあります。その物質としての存在感が印刷の魅力だと思います」(福岡氏)
「ご一緒してみて、福岡さんは本当に、純粋に印刷が好きなんだな、と心から思いました。今後も何か力になれることがあればお手伝いしたいです」(PD渡辺氏)

後半は新村氏の司会でフリーセッションとなりました。人選の際の裏話から始まって、話は徐々にそれぞれの失敗談や苦労話に進行しました。
まずは菊地氏です。やはり一番の思い出は、版に描く作業中のことのようです。
「版に描くため、専用の溶剤を使ったのですが、それがメチャクチャ臭くてまいりましたね。身体を動かして何かをするのは大好きなんですけれど……」(菊地氏)
「溶剤から発生しているのは毒ガスだよ、と菊地さんに言われて思わず部屋から逃げ出してしまいました。あの時はビックリしましたね」(PD森岩氏)
今まで幾度となく現場で印刷作業に立ち会ってきたPDにも、この臭いは想定外だったようです。

「私は具体的な制作というよりも…」と話をしてくれたのは福岡氏です。黙々と作業をしては入稿していたというなかで、人の意見を聞いてみたいなと思ったというのですが、
「制作途中の作品を会社でさりげなく貼りだしておいたのですが、誰も何も言ってくれないんですよ。何か言って欲しかったのに……、ちょっとショックでした。でも自分から皆に聞いたけど」(福岡氏)
「そう聞いたので、打ち合わせの時にはああでもない、こうでもないってたくさん話をしましたよね。グチも聞いてあげたいな、と思って」(PD渡辺氏)
技術的な面に限らずに制作者をフォローしたいという気持ちが伝わってくるコメントでした。一方、思わぬアクシデントに見舞われたのが仲野氏です。
「デザイン制作中の12月31日、データ量が重すぎてMacが大破。元旦から電器屋で行列に並んで買い替えました。あれは辛かったです」(仲野氏)
会場中が同情するなか、すかさずPDからも苦労話がポロリ。
「スケジュールの都合上、印刷立ち合いが土曜・日曜に集中してしまって……。それが少々きつかったですね」(PD田中氏)
など、皆から苦労話が出てくる中で、さらに盛り上げてくれたのが新村氏でした。
「実は、最初にウロコをやりたいと言った時に、どうも尾河さんのノリが悪いような気がして……。もしかしたら魚はイヤなのかな、ってちょっと心配になって。好きじゃないのかな、って。それでケーキでも、と用意したのがきっかけだったんですが」(新村氏)
「打ち合わせのたびに必ず新村さんがケーキや和菓子を用意していてくれるんです。ご自分も甘いものが好きだからとおっしゃられて。優雅に銀座でティータイム。ほんとに美味しい仕事でした」(PD尾河氏)
と笑いながら答える尾河氏に「本当に?」と訊ねる新村氏の息の合った掛け合いに会場は大爆笑となりました。
そして話題はお互いの作品へ。製版方法やデータの作成方法まで次々と話題にのぼります。
「異なる色のインキを校正機のインキローラーに直接つけて、そのまま刷ってグラデーションをつくるという手法は、いつ思いついたのか」「グラデーションの設計を具体的に説明して」「線数を知りたい」「印刷立ち合いのメリットは」といったものから、モチーフやテーマ選びのきっかけについてまで、お互いの作品に興味は尽きません。

トークの〆は、ADからPDに対するメッセージです。
「僕がPDに望むのは、印刷の知識というよりも、感覚を共有できるかどうかということです。現場にどう伝えてくれるか、社内的な調整力があるかどうかなど。森岩さんは僕が一緒に仕事をしたいと思っている人のうちの1人です」(菊地氏)
「普通はパソコンと自分とだけの作業ですから、画面と自分が近すぎるように思えて、その感じが実はすごくキライなんです。でも印刷の部分でPDの方が介在してくれるとすごく嬉しい。今回も安心して仕事ができました」(福岡氏)
「今回、もしもPDがいなかったら、と思うだけでゾッとしますね。田中さんが“この範囲なら思い切り走っていいよ”と印刷と紙で幅を想定してくれたので、僕はそこを思いきり走ることができました」(仲野氏)
「仕事ではPDがいる場合といない場合が半々くらいなのですが、今回はいてくれて本当によかったです。尾河さんのように、僕には思いつかないようなアイデアをくれる方がいるとありがたいです」(新村氏)

最後に会場からの質問を受け付けたところ、次々に手が挙がりました。「自分の作品でおススメNo.1は?」といったものから、1つの作品について「モチーフの選び方は?」「制作手法を知りたい」といった具体的なものまで含め内容もさまざま。時にはAD自らのデザインポリシーまで含めた答えも飛び出すなど、最後まで充実したトークイベントとなりました。

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