TOPPAN 凸版印刷株式会社

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アートディレクター町口覚氏に、写真集のディレクションについて、プリンティングディレクターとともに語っていただきました。

2009年12月12日、凸版印刷の印刷博物館グーテンベルクルームにて「デザイントーク in TOPPAN vol.8」が開催されました。今回お迎えした方は、数多くの写真集のデザイン・出版を手掛けてきた町口覚氏。写真作品を写真集という印刷物に定着させてきた町口氏が、凸版印刷プリンティングディレクターである十文字義美・都甲美博両氏とともにトークを展開しました。

▲左から、町口氏、都甲氏、十文字氏

最初は、写真集を独自の方法でつくり続ける町口氏による「町口流 写真集づくりの作法」から。
「写真集をつくるときは、人としっかり会って、目を合わせてしっかり話をしながらつくりあげていきます。喧嘩もすれば、抱きしめあうこともある。そうして人と人とがしっかり混じり合いながら一つの写真集にしていくのが、僕のつくり方です」 写真家と話しているだけではいい写真集はできない、と町口氏は語ります。
「写真集はチームプレーです。写真家がいて、版元の社長や、編集者がいます。そして印刷に関わる人たちがいます。プリンティングディレクターも必要だし、現場の人たちもいます。製本所の職人さんもいます。そういう人たち皆と真剣にコミュニケーションをとりながら、僕は写真集をつくります。でも、それで終わりというわけではありません。写真集づくりは書店で誰かが買ってくれるまで終わらない。だから書店の店員さんまで含めて、僕にとって関わる全ての人たちが大事なんです」 ちなみに、町口氏によると書店員さんは幼稚園の先生のようなものだとか。
「だって、僕らが手塩にかけた子供(写真集)を預けるわけですから」
写真家、出版、印刷、書店と関係者全てのチームプレーで写真集はつくられていくという考えのもと、そのディレクターとして本づくりに取り組んでいるのが自分だと言います。
「だから、写真家はもちろん、印刷のこと、紙のこと、インキのこと、製本のこと、書店のことまでちゃんと知らなければ話にならない。知らないと話ができない。話ができなければコミュニケーションがとれません。つまり、ちゃんと話しあう仲でいないと写真集はできないんです」 僕はお二人ともいっぱい話しながら本をつくってきたでしょ、と町口氏は十文字・都甲両氏に話を向けます。
「そうですねえ、マッチとやるときはいつも話しながらやっていますよね」(都甲氏)
「僕は、自分であまり色校に赤字を入れませんよね。だって話しているうちに、お二人が書いてくれるんだもの」(町口氏)
「話しながら書いちゃうよね。単に“ややM(マゼンタ)マイナス”って書いて渡されるより、話しながらの方がこっちも意図がよくわかるんですよ。本当によく印刷のことをご存知だし」(都甲氏)
「それにしてもマッチの色校はかなり厳しいですよね。真っ当だからやりやすい反面、ものすごく厳しい」(十文字氏)
そこで話題になったのが町口氏の事務所。なんと照明が印刷工場と同じ仕様だとか。ここまでやる人はめったにいない、脱帽したという十文字氏と都甲氏。
「当たり前のことですよね。だって同じ光じゃないと正確な色校のやりとりはできませんから。照明を整えるのは礼儀として当然ですよ」(町口氏)

町口氏はとにかく印刷が大好きで、徹底して印刷と付き合ってきたようです。凸版に初めてまとまった仕事を発注したときも1ヶ月間ほぼ毎日、朝9時から夕方5時まで現場立ち合いをしていたと言います。
「きっと凸版でも立ち合い最長記録じゃないのかな」
あれは楽しかった、と町口氏。
「それだけ現場に居続けると、当然ながら現場の人たちとも相当仲良くなりました。時には飲みに行ったり、カラオケに行ったり。職人さんって、飲んで話して、初めて腹を割って教えてくれたりしますから。それがすごく嬉しい」
これぞ町口流コミュニケーション。印刷現場の裏話がひとしきり飛び出すなかで、プリンティングディレクターも話題にのぼります。
「一口にプリンティングディレクターとはいえ、皆さん個性的な人ばかりです。そのなかで“どんなものでも食べちゃうぞ!”という感じなのがこの二人。どんなものをやってもアベレージが高い」
と二人を賛辞する町口氏。
「やり方は人それぞれですからね。例えば製版で完璧に仕上げてから印刷に進めるタイプもいれば、我々のように入稿から印刷までトータルでディレクションして仕上げるタイプもいます」(十文字氏)
そして話題は校正機や製版オペレーターとの付き合い方まで、ほとんどマニアックな領域へと突入。
「なんだかんだいっても、要は人と人との信頼関係がしっかり結ばれている中でつくっていかないと、いいものはできないということなんです。そういう意味で、写真集はバトンのようなもの。しっかり受け渡すことが写真集づくりには大切なんです」(町口氏)

ここから話題は町口氏による写真集レーベル「Mレーベル」の話へ。
「人と会うためにはネタが必要です。デザイナーが自分でレーベルを持っていると、人と会う確率が増えるんです」
町口氏は自ら写真集専門レーベルを立ち上げ、制作・出版しています。今年からはWeb販売で海外からも簡単に購入できるシステムをつくったとのこと。フランスで開催されている写真フェア「PARIS PHOTO」にも去年から出展しています。
「ヨーロッパの人は写真集をよく見ます。このフェアにもものすごくいろいろな人が来ています。出版社の人も、本好きな人も、学生さんも来れば、ベビーカーで子供を連れてきて本を見せているお母さんも普通にいる。ヨーロッパは本に対する文化のレベルが違う。皆、本が大好きなんだと実感しました」
という町口氏。「この紙は何?」「どんな印刷をしているの?」「この製本はどういうもの?」と本に関する質問をポンポンと投げかけられるのだそうです。
「印刷や製本、紙にまで皆が興味を持つんです。製本・印刷の技術に対する意識がすごくあるんですね。そもそも技術者や職人さん、つまりクラフトマンに対するリスペクトの度合いが全然違う」(町口氏)
ルーブル美術館の地下で開催される「PARIS PHOTO」は毎年秋、4日間にわたって開催されます。世界中から4〜5万人が集まる写真の祭典には、各国のギャラリー、出版業者、コレクターをはじめとして、多彩な人が集まります。その盛況ぶりを見ていて、パブリッシャーの立場として、日本は写真集に親しむ文化がないなとつくづく感じたそうです。
「だからいろいろなところに出て行って、いろいろな人に会うんです。そうすれば、皆見てくれるから。そう、やっぱり“人”なんですよ」

後半は町口氏が手掛けた仕事を中心にトークが進行しました。まず話題に出たのは王子製紙が銀座で運営する「王子ペーパーライブラリー」です。見本帳の制作をはじめ、開館当初からディレクションに深く関わってきたそうです。
「僕は印刷も好きですが、紙も大好きなんです。だいたい、グラフィックデザインをやっていたら紙は避けて通れない。紙を扱うのなら、紙のことを知らなければダメですよね」(町口氏)
元来の現場好きもあって、この仕事を引き受けたおかげで、全国の王子製紙の工場のほとんどを見て回ったとか。
「製紙機械は大きいものだと300メートルくらいあるんですよ。すごいですよね。そういうのを目の当たりにしてしまうと、紙を手にするたびに“いい紙だな〜”って感動してしまうんです」(町口氏)
紙の話が一段落してからは、手掛けた写真集の話を、スライドを見ながら伺うことに。十文字・都甲両氏がプリンティングディレクターとして関わった仕事をいくつか紹介してくださいました。そのひとつが森山大道氏の『凶区/Erotica』(朝日新聞社)です。
「とにかくギラギラさせたいと思ったんです。それでどうしたらいいかとお二人に相談したら、スゴイことになりました」(町口氏)
ダブルトーンの上に、さらにライト部に銀+パールメジウム版を用いた3色刷りの設計。よく見ると白い部分も紙地ではなく、印画紙のシルバーゼラチンのニュアンスが再現されていることがわかります。
「ぼくはいつも写真集をつくるとき、“プリントやポジと印刷物は違うから”って最初に写真家の方に言うことにしています。単純にアウトプットの仕方が違うのだから、当然、仕上がりも変わってきます。僕は印刷物として写真を超えたいんです。嬉しいことに森山氏も同じ考えをもっていたので、この『凶区』では存分に印刷物としてのつくりこみができました」(町口氏)
あがってきた色校を見て、森山氏も「これ、いいね」と大満足してくれたと言います。
もうひとつ、話題に花が咲いたのが、操上和美氏が「感覚の運動をするため」にと不定期刊で刊行している写真誌『CAMEL』。操上氏のモノクロプリントへのこだわりに応えるためにトリプルトーンを採用、シャドウ部を締めつつ、ディテールを出すことに挑戦しています。
「写真を拝見して、とにかく触発されました。バライタ紙(印画紙の一種)でプリントしたものすごいモノクロプリントで、“操上さんのプリントへのこの思い、このこだわりをなんとしても表現したい!”と思いました」(町口氏)
「印刷意欲を掻き立てるモノクロプリントでしたね。この凄さはダブルトーンでは無理だと思っていたら、町口さんは初めからトリプルトーンを想定していたんですよ。やった! と思いましたね」(十文字氏)
「暗部をぎゅっと締めながらも、ディテールを出したかったんです」(町口氏)
写真家とデザイナーとプリンティングディレクター、三者の思いが凝縮した一冊になりました。
多くの写真家と出会い、写真界の周辺に身を置いている町口氏。最近、どうしても腑に落ちないことがあると言います。
「日本の写真界は、どうも広告写真を甘く見ているように感じます。広告カメラマンに対してリスペクトがないんですね。これはおかしい。すごいものはいっぱいあるのに、写真家として知られていないんです」
そして今年は「PARIS PHOTO」に操上氏の『CAMEL』を持って乗り込んだ町口氏。
「なんと、ルー・リードが買ってくれたんですよ。やっぱり、いいものはいい。今度は写真集もつくろうと操上さんとも話しているんです」
その時は十文字さん、都甲さん、よろしくお願いします、と町口氏。
軽妙ながら熱い町口氏の語り口に、十文字・都甲両氏の絶妙な合いの手が絡んで沸いた、あっという間の2時間でした。

▲町口氏の手掛けた写真集が会場にところ狭しと並べられ、
熱心そうに鑑賞する多くの参加者が見受けられました。

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