TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.7 「GRAPHIC TRIAL 2009 4人のアートディレクターが挑む、印刷表現の新たな世界」

グラフィックトライアル2009を振り返りながら、コンセプトと制作プロセス、印刷についての各自の思いなどを語っていただきました。

年1回、毎年、印刷博物館P&Pギャラリーで開催されている「グラフィックトライアル」も今年で4回目を迎えます(2009年4月24日〜7月 26日)。今回のトークイベント「デザイントーク in TOPPAN vol.7」(5月30日、印刷博物館内グーテンベルグルーム)は、トライアルに参加した秋田寛氏、植原亮輔氏、佐野研二郎氏、八木克人氏ら4名のアートディレクター(以下、AD)をゲストに迎えて開催されました。トークには各作品制作を担当したプリンティングディレクター(以下、PD)5名も参加。半年にわたるトライアルを終えた各氏から、そのコンセプトや裏話が披露され、活発な議論が展開されました。

▲ 左から秋田寛氏、PD尾河由樹氏

まずは、それぞれトライした内容を各ADが紹介しました。
一番手は秋田寛氏です。「網点でどこまで表現の幅は広がるか」がテーマの秋田氏は、印刷が網点で構成されていると知った18歳のときから網点に魅せられてきたといいます。
「やればやるほど網点の魅力は増す一方で、その奥深さにはまってしまいました。アナログ時代の網点と今のデジタル時代の網点は根本的に違うのだ、ということが最後の最後にわかるまで、実は展示を止めようかと本気で悩んだこともありました。でもその葛藤のおかげで、光のような加法混色を減法混色のインキで表現するようなアイデアに行き着くことができました」(秋田氏)
「やってみると線数やスクリーンの角度など、非常にプリミティブな印刷の要素こそが重要だということを改めて確認できました」(PD尾河氏)

次は、普段から質感に強い愛着とこだわりがあるという植原亮輔氏。テーマは「色とパターンがつくりだす不思議な視覚効果」です。
「オフセット印刷でも質感の違いで絵柄をつくりあげることができるかどうかトライしました。色とニス、オペークホワイトで絵柄を表現しています。マットニスとグロスニスの使い分けにこだわり、一見すると1色の絵柄に見えながらも、ディテールにまで気になるような絵づくりを目指してみました」(植原氏)
「印刷としてはすべて100%のベタ。それが何種類ものインキを使うことでいろいろな表情を見せています。アートでもありデザインでもあるような、植原さんの絶妙なバランス感覚に深く感じ入りました。特に1回、2回とトライアルを重ねる中でジャンプアップしていったプロセスは必見です」(PD仲山氏)

▲ 左から植原亮輔氏、PD仲山遵氏

▲ 左から佐野研二郎氏、PD十文字義美氏、都甲美博氏

そして佐野研二郎氏。「紙の表と裏にインタラクティブな関係を」をテーマに、自身のプロダクトブランド<nico>をモチーフにしました。
「画面の中でいろいろできてしまうこの時代に、『印刷されるまでどうなるかわからない』ことをやってみたいと、あえてクラフト的な考え方をしてみました。なにより楽しかったのは、PDの方とのセッションでした。出校した色校を見てはアイデアが湧き、データを直してまた入稿……。ちょっと幸せな時間でした」(佐野氏)
「透けた感じを出すために、線数やスクリーン、製版のコントラストなどいろいろ工夫してみました。」(PD十文字氏)
「佐野さんは面白いし、仕事も決断力も速い。この人と仕事ができて本当によかった。いろいろ勉強をする機会になりました」(PD都甲氏)

最後は八木克人氏。「自然界の質感を紙の上に凝縮する」をテーマに、世界各地で撮り貯めた風景写真を素材に組み立てました。
「地球の非常に美しい自然を結晶化し、その質感をオフセット印刷でどう表現していくかに挑戦しています」(八木氏)
「CMYKの4色による確立された写真再現技術ではない方法での質感再現を目指しました。写真で可能な質感表現に対し、印刷ならではの質感表現をやってみることにしました」(PD長谷川氏)
それが、インキをひたすら刷り重ねて層を作るなかで質感追求を行うという基本軸でした。
「長谷川さんと話し合いながらアイデアを詰め、一つひとつが全く異なる製版設計になるよう組み立てています」(八木氏)

▲ 左から八木克人氏、PD長谷川太二郎氏

ひと通り作品が紹介されたあとは、秋田氏司会によるフリートークのコーナーに移行。
まずはそれぞれの苦労話。
「自分の頭を整理するのに苦労した」植原氏や「『自分探しの旅』にでるようなもの」だったという佐野氏のようにスタートに苦労した方、八木氏のように「1 ギガ近いデータでレイヤーもとんでもない数になり」実作業で苦労した方もいました。
担当PDとのやりとりにもさまざまなエピソードがあったようです。たとえば佐野氏は色校が出てくるたびに触発され、次のアイデアがひらめくようなプロセスに学生時代のような新鮮な感動を覚えたとか。秋田氏は行き詰まって途方に暮れていたときの担当PDの「頑張って」の一言が自分を頑張らせてくれたといいます。
一方、PDの話も尽きません。
「画像が複雑なため、修正1点で22時間かかるものもありました。しかも最近では滅多にない、コンピュータがフリーズするというアクシデントに見舞われた」(PD長谷川氏)、「1回ごとにアイデアも手法も大きくジャンプアップして進化する植原さんの仕事はワクワクしながらも、インキやニスなど材料の調達とロスが悩みの種となった」(PD仲山氏)など、現場ならではのリアルな裏話も披露されました。網点を変形させる作業が中心となった秋田チームは「色を見る目や体力を使うというより頭を使ったトライアルだった」(PD尾河氏)とか。一方、「トライアルの最中に意気投合し、別件でもPDを任されて仕事をすることになった」(PD十文字氏・都甲氏)というチームも生まれました。

秋田氏の軽妙な司会と、佐野氏の絶妙な合いの手がリードしてトークはテンポよく進みます。
予備校時代に一緒だったという佐野氏と八木氏は久しぶりの再会で思い出話に花が咲きます。
「八木さんも予備校時代の平面構成と同じものを感じます。描かないところは描かないけれど、描きたいところは密度をあげて描くというところが。クリエイションをする人って、やっぱり骨はずっと一緒なのかなとちょっと思ったんです」(佐野氏)
昔の八木氏のファッションまで暴露する佐野氏に八木氏が反撃。
「佐野さんも当時の作品からインパクトが強かったのを覚えてますよ。方向性というのは実は10代の頃からあんまり変わっていないのかな、という気がします」(八木氏)
そこに秋田氏が参戦、多摩美術大学の非常勤講師だったとき、植原氏が教え子だったと思い出話を披露します。
「テキスタイル学科なのに彼がやっているのはまるでグラフィックデザインだった」(秋田氏)とか。
そして、思い出話からクリエイターとしての芯がどこにあるかへ話題が展開していきました。
「植原さんの作品を見ていると、縦糸横糸のようなものを感じるんです。やっぱりテキスタイルを学んだ人なのかな、って」(秋田氏)
「時々そっちのほうに自分が流れていくなというのは感じるんですけれど、どうなんでしょうね」(植原氏)
「僕も18の時からドットに魅せられているしね。やっぱり18〜9の時から基本は変わってないんでしょうか」(秋田氏)
「まあ、途中で失恋したりいろいろあっても、なんか変わらないんですよ、きっと。僕はずっと笑わせることが好きだし。デザイナーになって12年、自分では『成長したぞ!』と思っても、よくよく見たらあんまり変わってないような気がします」(佐野氏)

もちろん、本題のデザインについてもポンポンと会話が弾みます。
「モニターでできるものがすべてではない、と僕は思います。画面上はあくまでラフ、穴埋め問題のように埋めていくのではなく、生き物みたいに変わっていくのがデザインじゃないのかな。デザインには決まりがない、そこが面白さ」(佐野氏)
「そう、たとえ間違った色校正が出てきても、それが良かったら『オッケー!』という勇気もいる。レールから脱線する勇気も必要だし」(秋田氏)
「それで発見することもけっこうありますよ。見本通りに進んでチャンチャン! って終るんだったら、たぶんやっていてつまらないですよ。それにトラブルがあったほうが、思い出がいっぱいできるし」(佐野氏)
「僕はトラブル大好きなんです! ハプニングは大事だと思うなあ」(秋田氏)
「デザインはハプニングの連続。実は僕、そういうところがデザインのすごく好きなところです」(佐野氏)

そのほか、クリエイティブや印刷についてこんな印象的な発言もありました。
「アナログ世代の僕は『デジタルだったら何でもできる』と思っていました。ところがそうじゃなかった。『なにもできない』は言いすぎですが、できないことばかりだった。それが逆に僕にとっては発見でした」(秋田氏)
「印刷は、多くの人に自分の思いを届けるものだと思います。伝えたいことや、見せたいものをそのままリアルに見せることができる」(植原氏)

さらに、次回への期待が。
「完成に行き着くまでの過程に、アイデアが生まれる瞬間やこだわりや悩みが展示を通じて見られるのは発見でもあったし、面白いところでした。参加して実感しました」(八木氏)
「誰にも何かテーマがあると思うんです。チャレンジするのはすごい重要なことだと、このトライアルであらためて思いました」(佐野氏)
「嬉しいことに、このトライアルのおかげで印刷に関する疑問点がいくつか解決できました。グラフィックデザイナーの皆さんは、自分の疑問を解決するためにも参加するといいですよ」(植原氏)
忙しい毎日のなかでは、自分を触発する「挑戦」をしたり、実験で「疑問」を解決したりする機会は滅多にないのが現実です。だからこそ自由にチャレンジできる「グラフィックトライアル」は、そんなグラフィックデザイナーにとって格好の実験場となる可能性を秘めているのかもしれません。「実は僕の周りにも参加したいと思ってる人は結構いるんです。そういう人は『参加したい!』と、どんどんアピールしたほうがいいと思います。凸版の方もアンテナを張ってリサーチしてください」(秋田氏)

2時間強にわたるトークが終了後、ADやPDと来場者が自由に交流できる場がギャラリーに設けられ、閉館まで和気あいあいとした会話が交わされました。

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