TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.6 「ブックデザインの方法―工藤強勝の仕事」

グラフィックデザイナー工藤強勝氏に、ブックデザインの方法をご自身の仕事を通して語っていただきました。

2008年12月7日、凸版印刷の印刷博物館 グーテンベルグルームにてデザイントーク in TOPPAN vol.6が開催されました。この講演会は印刷博物館 P&Pギャラリーで開催中の「世界のブックデザイン 2007-08」(11月22日〜1月18日)のテーマに因んで企画されたものです。講演者は現在、グラフィックデザイナーとして書籍や雑誌デザインで活躍中の工藤強勝氏。ご自身の仕事を例に取りながらブックデザインの方法論と組み立て方などを現場ならではのライブ感あふれるエピソードとともに語っていただきました。

最初は、グラフィックデザイナーに至ったプロセスと自己紹介を兼ねたお話です。
「僕は最初、日本電信電話公社(現NTT)に電子交換機のエンジニアとして就職しました。全国に25万人の社員がいたところですから、日本の人口が1億人とすると日本人の400人に1人が社員という巨大な職場です。自分は25万分の1なんだというのがすごいと感じる一方で、自分がいなくても何とかなる仕事だと思うと寂しい気がしました。できれば自分がいないと、どうにもならない仕事をしたい、そう感じたのです」
そんなとき目にとまったのが通勤途中の美術研究所でした。そこでデッサンを学んだ後に桑沢デザイン研究所に入学、デザインの道へ入ることになったのです。 23歳の時でした。入学当初はプロダクトデザインをと考えていた工藤氏でしたが、あるときブックデザインの道に入るきっかけとなる出来事が起こります。
「文化人類学の西江雅之先生のゼミを受講していた時のことです。先生が『今度僕の本が出るけれど、誰かデザインできるやつはいないか?』と聞いたんです。具体的にどうするかもわからないし、もちろんやったこともありません。でも咄嗟に手を挙げていました。できるかできないかは手を挙げてから考えればいいと思っていて、それは今でも変わりません。考えることとつくることは同時進行が必要だと思っています」
それから35年が経ちました。26歳で事務所を設立し、本人の弁によれば「見よう見まねで」やってきたなか、わからない事は臆せずなんでも人に聞き、メモをとり、自分の原理を確立してきたと言います。
「とにかく一冊、一冊を楽しもうと思ってやっています。辛くてやったものは今までひとつもありません。好きでやって、それを楽しむ。そうやって仕事をしてきました」
ポスターや小型グラフィックなども手がけてきた工藤氏にとって、やはりブックデザインは特殊だとか。それは本が立体物であり、オブジェでもあるからだと言います。
「本は小さな日本家屋をデザインするようなものです。たとえばジャケットは格子戸で、開くと見返し・中扉があって、それは石畳や玄関、土間にあたります。家に入れば部屋(本文)があり、奥には床の間があったりして奥付に至ります」
構造物のようにデザインも組み立てていくようです。そうして完成した本は約2,000冊。書店に並ぶ本は工藤氏のメッセージを代弁してくれるかけがえのない存在でもあります。

ここからは、これまでの仕事を紹介しながらのトークになりました。5つのメソッドに分類された膨大な数のスライドを見ながら、ひとつひとつ書体や紙、仕様に関するリアルな解説とエピソードが語られます。「タイポグラフィ」「フォトグラフィまたはアブストラクト」「イラストレーションまたは図像」「紙素材」「ギミック(特殊加工)」の5つのメソッドは、そのまま工藤氏のデザインにあたっての方法論そのものです。
「与えられた仕事をそのまま漠然とデザインすることはありません。どのメソッドでいくかを見定めてからデザインに入ります」

1. タイポグラフィ
「この本のように何人もの方が登場する対話集などでは、一部の方のイメージに偏ってしまわないなど配慮が必要です。そんなときはタイポグラフィのみによるデザインが非常に有効です」

▲ 左から秋田寛氏、PD尾河由樹氏

2. フォトグラフィまたはアブストラクト
「これは内容が漢方の関係の本でした。ベニヤに枯草を貼り付けてガッシュやゴールデンアクリリックスでドローイングして撮影したものです。このように内容からモチーフを決めて撮影することもありますが、普段から使えそうだなと思うものに出会うと撮影して貯めこんでいます。アイデアも素材もぴったりくるテーマに出合うまで引き出しにしまっておきます」

▲ 『アジアの医学 インド・中国の伝統医学』(ピエール・ユアールほか共著+赤松明彦ほか共訳/せりか書房)

3. イラストレーションまたは図像
「僕はアイデアがなくなったと感じたら、いつも基本に戻ることにしています。すなわち基礎造形ですね。これもドローイングでイメージをつくりました。基礎造形はデザインに繋がっていくものなんです」

▲ 『聖なる飢餓 カニバリズムの文化人類学』(ペギー・リーヴズ・サンデイ著+中山元訳/青弓社)

4. 紙素材
「書体もそうですが紙素材にはずいぶん助けられます。わからないことは聞くのがいちばん。製紙メーカーや紙商社の方などとのおつきあいのなかからいろいろ教えてもらえば、どんどん面白くなっていくものです」

▲ 『横浦光潔』(新生紙パルプ商事・紙百貨ギャラリー企画展のための作品)

5. ギミック(特殊加工)
「縦3つ、横3つの穴が開いていてそこから中が見えるようにデザインしています。こういう立体物ではシミュレーションをした後で、何度も実際にダミーを作成しながら検証していきます。自分でつくりながらデザインを微調整していきます。組み立ててみないと微妙なズレや誤差がわからないからです」

▲ 『FREAKS 境界線上の遊戯 チバ・アート・ナウ ‘98』(落田洋子ほか画/佐倉市立美術館編集)

スライドの解説とともに工藤氏が話してくださったのが、工藤氏が考えた「グラフィックデザイナーに必要な7つのファクター」でした。
「1.モチベーション、2.コンセントレーション、3.リアライゼーション。第一に『なぜデザインが好きか』があって、それを仕上げていける集中力が求められます。そこには自分自身の自覚が必要になってきます」
ただしこれは、誰でも目指せば持つことが可能なファクターとのこと。
「続けて4.プレゼンテーション、5.ディレクション、6.マネージメント、7.プロデュースとなります。これは訓練で会得する事ができるファクターです」
たとえばマネージメントは友だちとの飲み会で幹事をするようなものであり、経験を積めばやり方が身につくというのが工藤氏の意見。しかしこの7つに加えてもうひとつ、とても大切なファクターがありました。
「右脳の発達です。これは0番。自分のなかにある芸術的な感覚やセンスをどう開花させていくか、これが肝心です」

スライドによる作品紹介が終ったあとは、参加者と講演者が直接にやりとりできる質問コーナーです。少々緊張気味の参加者の心をほぐすような、工藤氏のウィットの効いたトークに導かれながら、何人もの方から質問があがり、最後は時間をオーバーするほど盛り上がりをみせて講演会は幕を閉じました。会場の両側に設置された、工藤氏の実際の指定紙と完成本のコーナーは、講演終了後も大盛況。並べられた貴重な資料を興味深そうにじっくり眺める参加者たちが、閉場するまで数多く見受けられました。

▲会場に並べられた指定紙と本

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