TOPPAN 凸版印刷株式会社

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デザイントーク in TOPPAN vol.5「GRAPHIC TRIAL 2008 参加クリエーターが語る印刷表現の追求」

グラフィックトライアル2008のコンセプトと制作プロセスを中心に、印刷への興味や思いを語っていただきました。

2006年から開催されている「グラフィックトライアル」も今年で3回目。2008年4月25日〜7月13日まで印刷博物館P&Pギャラリーにて展示されています。このトライアルに参加した廣村正彰氏、永井裕明氏、高井薫氏、米津真理氏の4名のアートディレクター(以下、AD)をゲストに迎えて開催されたのが、トークイベント「デザイントーク in TOPPAN vol.5」(5月24日、印刷博物館内グーテンベルクルーム)です。各作品制作を担当したプリンティングディレクター(以下、PD)4名もトークに参加、総勢8名による賑やかなトークが展開されました。

▲ 左から廣村正彰氏、担当PD尾河由樹氏

最初に、それぞれトライした内容を各ADが紹介しました。まずは廣村氏。「印刷の原点を視覚で捉える」というテーマのもと、CMYKに分版した版を4人が手描きで再現しています。
「最近は入稿したもの以上のものが印刷で出てくることがあまりありません。昔は手がけた印刷物があがってくると夜も寝られないほど感動したものだったのに、今はなかなかそういう体験をすることがない。恐らくデジタル化で印刷のプロセスに関わらなくなった事が原因なのでしょう。そこで今回のトライアルでは、印刷の原理を体験するために、自分たちの手で実際に版を描いてみることにしました」(廣村氏)
版の描き起こしには、廣村氏と事務所のスタッフ2名、そして氏の作品を担当したPD尾河由樹氏の4名が参加しました。凸版印刷の板橋工場の校正室に丸一日詰めて、やっと一枚が仕上がるかどうかの作業は、回を重ねるごとに修行のように感じられるようになった、と廣村氏。
「どれだけ忠実にトレースしても、やっぱり描き手の個性が出ます。合体しても思うような絵柄が出てこないんですね。面白さを残しつつ、微妙なトーンを合わせる部分はPDに委ね、デジタル処理してもらっています」(廣村氏)

▲ 左から永井裕明氏、担当PD森岩麻衣子氏

次は永井氏です。「美・味・品の三拍子揃った幕の内弁当」をイメージした作品は、「飽きっぽい自分が最後まで乗り切れるよう」考えたというだけあって、画家の牛島孝氏の絵、活版の線、紙幣や証券に使われる彩紋など多彩なアイデアが盛り込まれています。
「牛島さんにはさまざまな種類の墨、広い濃度の鉛筆、銀箔、胡粉など素材を駆使してもらいました。今回はオフセット印刷という縛りのなかでどこまで物質的な表現が可能なのか、レッドゾーンに突入するつもりでトライしました」(永井氏)
同じ墨の再現にもプロセス4色、グレーや黒の掛け合わせ、インキの調合などいくつもの方法を試しながら探っていった、と担当PD森岩麻衣子氏。その結果、行き着いたのが写真製版の技術の活用でした。質感も煌きも、あたかもそうであるように見せかける「騙しのテクニック」です。
「そこに行き着けたのも、僕の意図を森岩さんに伝え、彼女が解釈し、咀嚼して現場に伝えるということができたからでしょうね。僕とPDのめざす方向がある程度一致していなければできない作業だったと思います。プロセスから完成したポスターまで、そのすべてがグラフィックトライアルという作品です」(永井氏)

そして高井氏。印刷の限界に挑戦してみたいと考えて取り組んだのは、印刷による紙質の変化と、CMYKのプロセス4色を限界まで薄くするというトライアルでした。
「展示してある作品は、通常のインキを1%くらいまで薄めたもので刷りました。ノーマルに製版してノーマルに刷るという、ほとんどいつも通りの印刷で、インキという一軸だけを変えてみたかったんです」(高井氏)
担当PD高本晃宏氏によると、インキを薄めるということは単純に見えても、実はたくさんの問題が起きてくる難しさがあったそうです。印刷用のインキは非常に精密に設計されているため、調合によって特性が大きく変わってしまうことが多く、予期しないトラブルも発生します。実際、今回のトライアルの結果、印刷の現場でも数々の発見があったとのことでした。また、最終の作品には生かせませんでしたが、印刷で紙質を変えるという試みも満足できるトライアルになったと高井氏は言います。
「どこまでいけるのか、思い切って限界に挑戦してみました。もしかしたら限界を超えてしまったかもしれませんが、それもトライアルだからこそですよね。この結果は普段の仕事でも生かしていけそうですね」(高井氏)

▲ 左から高井薫氏、担当PD高本晃宏氏

最後は米津氏です。「感触のイメージを膨らませる」をテーマに、ひとつの原画から5つの全く異なる質感を表現しました。
「凸版印刷内でカレンダー制作に携わっている私の仕事は、画家や写真家の方の作品をお借りして、どこまで忠実に再現できるかが目標となります。今回はせっかくのチャンスなので、少し新しいことにチャレンジしたいと思いました。それで私自身がつくった一枚の原画から、紙や製版の工夫のみで質感そのものをつくってみたんです。私と製版の方が一緒に絵を描いていくような感覚で、質感を印刷でつくっていくという、かなりチャレンジブルなトライアルになりました」(米津氏)
米津氏が表現したい質感のイメージを担当PDの谷口愛氏に言葉で伝え、谷口氏は自身の感性や想像力を動員しながら、どんな表現ができるか自由に可能性を拡げ、製版の設計を考えて実践するというやり方です。米津氏が「PDの感性が生かされたトライアル」と紹介したように、まさに二人三脚の作業でした。
「過去のトライアルとは違う進め方で作品が仕上がったと思います。いろいろご迷惑もおかけしましたが、結果として楽しいトライアルになりました」(米津氏)

▲ 左から米津真理氏、担当PD谷口愛氏

ひと通り作品が紹介されたあとは、廣村氏司会のフリーセッションとなりました。特に今回、話題となったのがプリンティングディレクター制度です。
「世界でも有数の日本の印刷技術を支えてきた大きな要因は、デザイナーの意図を解釈して印刷に反映させてきたプリンティングディレクターではないか」という廣村氏の見解から、「プリンティングディレクターの誕生は、デザイナーや写真家の方々の意向や思いを受け止めて設計して組み立てる職種が必要だと考えた一人の技術者から始まったそうです」(PD尾河氏)とPDの始まりが話され、さらにPDの役割が具体的に紹介されました。
「大量印刷をする雑誌などでは、編集者やAD、写真家の意向を受け止め、印刷現場をまとめていきます」(PD森岩氏)
「カタログなど精密な色合わせが必要な印刷物では、プロセス4色でどうやって現実に近い色を再現するか、その精密な色合わせも重要な仕事です。作家の方々の悩み相談に応えることもあります」(PD高本氏)
ADからは、「あらためてプリンティングディレクターの有効性を感じました」(永井氏)、「人とものをつくっていくという感触は、クリエイティブにとって非常に有利なことだと思います」(廣村氏)などの意見が。このテーマの結論として、来場者に対し積極的にプリンティングディレクター制度を活用したほうがいいとのアドバイスが送られました。

さらに話題は、トライアルの感想や裏話などへ。
「このトライアルは、印刷の未来を探るのに格好の場。僕らにも凸版印刷にも非常に意義のある試みと感じています」(廣村氏)
「私たちPDや生産現場にとって、トライアルはいろいろな方法を試せるまたとないチャンスです。印刷に携わっている人間として、今後がすごく楽しみです」(PD谷口氏)
トライアルの意義が語られる一方、技術の移り変わりに対して警鐘となる意見も。
「凸撮りのように、昔は主要だった技術がいつの間にか特殊なものになっていたのにビックリ。表現の幅となる技術は僕らデザイナー側も継承していかなければならないと思います」(永井氏)
そして最後は次回への期待が語られました。
「テーマもクライアントの縛りもない自由な制作は、ほんとに応えるのが難しくて右往左往してしまいました。次回はどんな方々が右往左往するのか、ぜひ見てみたいですね」(高井氏)

各チームの息の合った掛け合いで盛り上がるなか、あっという間に過ぎていった2時間でした。終了後は、ギャラリーで来場者と自由に交流できる場も設けられ、閉館までの時間いっぱい、和気あいあいとした会話が交わされていました。

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