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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

名久井直子「本は言葉を乗せる舟 装丁は舟をつくる仕事です」

35 名久井直子

第2話「狙ってボールを投げるように――小説の装丁」

―装丁するとき、具体的にはどのように進めるのですか?

 今は仕事の9割が小説なので、その進め方で話しますと、始めにゲラが届きます。これはまだ、デザインされていない、テキストが並んだだけのもの。これを読みながらどんな装丁にするかを考えます。どんなイメージにするか、文字だけにするか、イラストや写真を使うか、イラストなら誰がいいかなど、読み終わるまでにはだいたいイメージを決めてしまいます。それから編集者と打ち合わせをして、方向が決まったらイラストや写真などの素材を発注します。
 素材が揃ったらレイアウトをしながら用紙や加工方法、細かな体裁などをいっぺんに決めていきます。本はカバー、帯、表紙、花布、スピン、見返し…、さまざまな要素が縦糸と横糸のように絡みあっているので、一緒に考えていかないとまとまりません。「カバーは4色だから表紙は1色にして、帯を2色にしよう」とか、予算やいろいろな条件を考慮しながら組み立てていきます。

『愛の夢とか』(著:川上未映子/講談社/2013年)
約10個の花のイラストを組み合わせることで、変化のある装丁を実現。

―装丁を考える際に最も留意することは?

 「興味を惹きたい」ということに尽きますね。小説にはそれぞれある程度決まった読者層もありますし、作家ごとに世界観もある。新しい作家さんであっても作品を読めばどのあたりの層に届くものか見当がつきます。そこに向かってボールを投げるように、なるべくちゃんと届くように、その雰囲気を汲みとってかたちにしていきます。
 例えば『タラチネ・ドリーム・マイン』では、ビニールの上製本をつくりました。目立たせたいという編集者の希望もあったし、作家の作風も変わった雰囲気。さらに、時間もかけられたので、素材選びから始めて「他にはまずないだろうな」という本に仕立てました。

『タラチネ・ドリーム・マイン』(著:雪舟えま/PARCO出版/2012年)
極めて珍しいビニールの上製本。製本に適したビニール素材探しと製本テストに半年かけ、最終的な素材と製本方法に辿り着いて実現した。

―名久井さんご自身としては、どんな装丁が好きですか?

 実はけっこう古い本が好きなんです。昔の本って内容に関係なく花や絣の模様になっているものがありますよね?志賀直哉でも夏目漱石でも芥川龍之介でも、いくつか模様っぽい装丁のものがあります。本当はああいう風にストーリーと関係ない感じの物体自体がきれいだなというような本を、もっとやりたいのです。でも、そういうチャンスはなかなか無いのですが。
 体裁で冒険することも好きです。『タラチネ・ドリーム・マイン』もしかりです。他にも辞書のラインに載せて加工したり、ちょっと変わった紙を使ったり、条件的にもOKであればやってみたいことはいろいろありますね。

『イタリアの道』(著:ささめやゆき/講談社/2013年)
表紙は板紙にスミ一色。表紙全面に平網を引くことで色みにニュアンスを持たせた。

左:『村岡花子エッセイ集 腹心の友たちへ』(著:村岡花子/河出書房新社/2014年)
陶芸家・山野辺彩のお皿の柄をもとに描きおろし。表紙は茶と緑の掛け合わせ。
右:『すみれノオト』(著:松田瓊子/編:早川茉莉/河出書房新社 /2012年)
布川愛子の花をテキスタイルのように使用。表紙は銀とブロンズの2色刷り。

※画像をクリックすると拡大表示されます。

―名久井さんにとって装丁とは

 装丁の仕事は、言葉を乗せる舟をつくるようなものだと思います。たとえば夏目漱石のように百年も経つ作品は、舟を乗り換えるように何度も装丁が変わっているでしょう? そうしないと古くなって消えていってしまうから、その時その時でテコ入れして新しい舟に乗り換えさせなければならないからです。言葉というものはそうやって繋がっていくのだと思います。
 だから新刊なら、私が一艘目の舟をつくることになります。「舟に乗せて川に流しますよ、だからあとは誰かが最後まで繋げていってくださいね」という気持ちで送り出しています。ちょうどバケツリレーの途中を受け持っているような感じです。

名久井直子
ブックデザイナー
1976年岩手県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店勤務を経て、2005年独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。
第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。主な仕事に、『愛の夢とか』(川上未映子)、『夜また夜の深い夜』(桐野夏生)、『まばたき』(穂村弘 作・酒井駒子 絵)、『宇野亞喜良クロニクル』など。

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