TOPPAN 凸版印刷株式会社

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CREATOR’S FILE クリエイターズファイルトップクリエイターに、仕事や考え方について伺います

カタチに想いを宿す

28 大久保明子

文藝春秋デザイン部に所属し、数多くの本の装幀デザインを担当する大久保明子氏。著名な文学賞の受賞作品をはじめ、数多くのベストセラーや話題作を手がけてきた実績を持ち、装幀デザインのトップランナーのひとりといえるだろう。その大久保氏に、生い立ちからこれまでの歩み、デザインの進め方などをお話しいただいた。そこからうかがえたのは、プロフェッショナルとして本作りの仕事に携わることへの強い想いだった。

第1話 「自分の感覚を信じる」

『ナルニア国物語』で本にめざめる

小学校3年生の時に、担任の先生に『ナルニア国物語』の本を貸していただいて読んだのがきっかけで、本が大好きになりました。その年のクリスマスに、母にプレゼントは何がいいかと訊かれて『ナルニア国物語』全7巻のセットをもらいました。目の前に7巻ぜんぶが揃っているのを見て、本当に嬉しかったことをよく覚えています。
 中学生になったら今度はマンガにはまりました。もともと絵を描くのは好きだったので、マンガ家に憧れていた時期もあります。
 高校1年になって、2つ上の姉が受験の準備を始めるようになった頃、姉の友だちが美大の予備校に行っているという話を聞いて、「美大という手があるんだな、それだ!」と思いました。
 それまでは将来何になりたいとか、特に考えたこともなかったのですが、美大という存在を知って、初めて意識的に将来のことを考えるようになったんですね。

美大への進学

進学したのは多摩美術大学のグラフィックデザイン学科です。でも大学で学んだことで、今の仕事に直接つながっていることって…実はあまりないんですよね。大学でエディトリアルとイラストレーションのコースのどちらかを選択しなくてはならなかったときもイラストを選んだくらいで。エディトリアルには全然興味がなかったんです。
 大学より、アルバイト先のデザイン事務所で学んだり身につけたりしたことのほうが大きかった気がします。プロダクト系の小さな事務所で、おもちゃやキャラクターグッズの企画などをしていました。そこではラフスケッチをものすごくたくさん描かされていました。

就職活動を通じて本好きを再発見

就職活動も、特に何がしたいと決めていたわけではありませんでした。広告代理店も受けたし、ゲーム会社も受けたし。ただ、なんとなく広告よりもっと商品に寄ったデザイン、商品そのものやパッケージとか、そういうものがやりたいなということを考えるようになっていましたね。広告のように消費されて流されていってしまうものより、残るもののほうがいいなと思ったからです。
 そのうちに、たまたま文藝春秋が募集しているのを見つけて「あ、そうか、出版社というのもあるな」「そういえば私、本が好きだったじゃない」って思い出したんですよね。で、受けたら採用されたので入社したというわけなんです。文藝春秋のデザイン部は3〜4年に1度しか募集をしていませんから、運がよかったなと思います。

初仕事、上司に笑われるほどラフを作る

入社して、初めて手がけた装幀の仕事は『「嵐の乙女」シンドローム』という、今多く手がけている書籍とはちょっと毛色の違うサブカルっぽい本でした。
 その頃、よく一緒に仕事をしていた編集者の方が、いつも私がいいと思うものをいいと言ってくれて、それを採用して世に出してくれていたんです。そのことが新人だった私にとってすごく自信になりました。
 まだ発行部数が少ない本ばかりで制約が少ないということもあったのかもしれないけれど、自分の好みのものが作れたし、それをいいと評価してくれる人がいたので、自分の感覚、自分のデザインの方向性は間違っていないということに自信が持てたんですね。それは今でも感謝しています。

仕事の作法1 〜進め方

文藝春秋のデザイン部はわりと放任主義というか、上司のデザインチェックみたいなことがない部署なんです。仕事の依頼も編集者からデザイナー各個人に直接来ます。
 依頼が来たら、その時に著者の方の意向などがあればそれを頭にとどめながら、原稿を読んでイメージを膨らませて、アイデアを練っていくというのが基本的な作り方です。
 私はラフをたくさん作るほうだと思います。というのも、予備校時代の先生に教えられて納得していることがあって、それは「どんなアイデアでもきちんと最後までラフを仕上げてから次に取り組む」ということ。「最後まで仕上げてみないとそれが使えるか使えないかの見極めはできない」と言われたんです。
 使える・使えないという判断は、一番最初の段階ではやはり自分の中のものさしが基準になります。
 判断のポイントとして大きいのはパッと見の良さでしょうか。パッと見て良くて、さらにじっくり見てみたらさらにいいというものがベストだと思っていて、そのほうが店頭での見え方も映えるものになると思っています。
 そして、ある程度固まったら編集者や営業や、著者の方の意見も聞きながらディテールを詰めたり微調整していくという進め方が多いですね。

色はなんでも好き

 私のデザインは色が特長的だといわれることも多いのですが、色はどんな色でも好きです。
 よく販売の現場では慣例的に黄色は良くないとか紫は良くないといわれることがありますが、あまり気にしなくてもいいんじゃないかなと思いますね。
 色って、組み合わせた時に汚く見えてしまう組み合わせというのは確かにありますし、そこはとても気にする部分です。でも、その色1色だけで見たら、どの色もきれいだなと思うので、慣例的なことにとらわれず、いろんな色を使っていきたいと思っています。

大久保明子
装幀家
1971年埼玉県生まれ。多摩美術大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻卒業後、株式会社文藝春秋デザイン部入社。書籍のデザインを主に手がける。『真鶴』(川上弘美著/文藝春秋)で第38回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。

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